第61話 エルキ共和国コスタ領の村落へ

「おい、一体何考えてんだ!?」


 出口で彼女に追いつき、声を掛けるとイリスは不敵に笑ってみせた。


「わたしに聖女は無理って事」

「いやまあ、似合ってるとは思わないけど――」

「おっ、ニル兄にイリちゃん! 謁見はもう終わったっすか?」


 外で待っていたアンジェが声を掛けてくる。周囲には旅の途中で仲良くなった戦士の爺さんや、魔法使いたちがいた。


「ええ、アンジェちゃん。一発殴れなかったのは残念だけどね」

「ほほぅ、小娘がようやるわい」

「あー……まあ、街暮らしならともかく、質素な教会とか、巡礼してると、この建物は趣味悪く感じちゃうものね」


 修道女も爺さんも、二人とも「まあ、ふつうそうするよな」みたいな反応を返す。数日前まで教会権力そのものみたいな隊列の中に、彼らが居たのがなんだかおかしかった。


「ったく、笑ってる場合じゃねーだろ……」


 その脇、彼らの陰になるようにして大きな人影が背中を丸めていた。


「モーガン? 何やってんだお前」

「構うんじゃねえよ、ちょっと自分の中でもまだ踏ん切りがつかねえんだ」


 何言ってんだこいつ? と思っていると、アンジェが俺に耳打ちをしてきた。


「ガンちゃんは今まで混血の事をいじめてきたのが、正しかったのかどうか分かんなくなってるみたいっす」


 ……ガンちゃん?


「さ、謁見も終わったみたいっすし、出発するっすよ!」


 呼び名の違和感に首をかしげていると、アンジェは高らかに宣言した。


「ええ、行きましょう。楽しみね」

「そうじゃな、話を聞くかぎりそっちの方が面白そうじゃ」


 彼女の宣言に同意する周囲の人々、あれ、これってもしかして――


「アンジェ、もしかしてこの人たち全員……」

「コスタ領の話したら、興味あるって言ってくれた人たちっすよ。もうちょっと人を増やしたほうがいいと思うんっすよね」


 そんな子供が自分の家に招待するみたいなノリで……


「へえ、じゃあわたしも行こうかな?」


 頭を抱えていると、俺のすぐ隣からそんな声が聞こえた。


「イリス!?」

「どうせ教会もあるんだろうし、住人が増えるなら聖職者は多いほうがいいでしょ?」


 いやまあ確かにそうではあるんだが……


「はぁ……あとで俺から魔導文を送っておく、ようこそコスタ領へ」


 もういいや、なるようになれ、難しいこと考えるのはエレンとユナの仕事だ。俺じゃない。


 思考を放棄して、俺たちは旅の続きを楽しむことにした。


「よろしくっすよ! イリちゃん! ガロおじと仲良くやるっす!」

「えっと、ガロおじさん? その人が神父様かしら? きっと、とても素敵な方なんでしょうね」


「……」

「……」


「え、ちょっと! 二人とも黙らないでよ!」


 悪い人ではないのだが、イリスの考える「素敵な方」では断じてないので、俺たちは口を噤まざるを得なかった。

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