幕間

幕間:ラスト

 華美な調度品の並ぶ部屋で、オレは相手を待っていた。


 ハヴェルが死んだことをアダムに報告したが、やっぱりというか、あの人はヒトに対して強い執着は持っていなかった。


――ああ、そうなんだ。短期間に強欲と憤怒が欠けたのは痛いね、補充はどうするか決めた?


 正直なところ、拳を握るだけで我慢したオレは、よくやったと思う。今すぐにでも殴り掛かりたい気持ちだったが、アダム相手に俺は無力だ。


 七人のうち悲嘆は永久欠番として、今残っているのは色欲、貪食、嫉妬、虚栄の四人、DSFを立ち上げて以来、ここまで人数が減ったのも珍しい。早いところ代わりを見つけなければ。


 憤怒はしばらく空席になるが、強欲に関してはハヴェルとオレで拾ったあいつがいる。この会合が終わった後に迎えに行くつもりだ。


 これからのことを考えていると、ドアが開かれ、老人が現れる。


「すまないな、聖女の謁見に欠席するわけにもいくまいて」


 両掌に烙印(スティグマ)を持つ、第一の罪源「虚栄」(ヴァイン)――クリフォード・ニコラス三世だ。


「構わねえよ、オレはただ憤怒(ラース)の死体から遺物を回収しに来ただけだ」


 オレは突き放すように言う。罪源職、特に烙印持ちともなれば、多くは性格破綻者ばかりだ。慣れ合うつもりはない。


「憤怒……ああ、背教者ハヴェルのことですか、彼もDSFなら、教えてくれればよかったのに」


 DSF構成員のほとんどは、連絡役のオレとアダム以外の構成員を知らない。


 それは無用な争いを避けるためであり、罪源職を上手く扱うためのシステムだった。


 現に虚栄と憤怒がお互いのことを知っていたとすれば、内部抗争に発展することは想像に難くない。


「――で、背骨(カイロス)でしたっけ?」

「ああ、DSFで管理しておきたい。最近になって左手(ワキイカヅチ)の所在が分かってな、そろそろ本格的に動くそうだ」


 遺物……神そのものの欠片、それ自体にも強い力があり、俺たちはそれを収集している。


「申し訳ありませんが、すっかり忘れていましてな、現在は左目(サリエル)の近く、イリスという小娘が持っております」


「は?」


 俺は耳を疑った。回収を忘れた? DSFの最優先事項を?


「いや、ちょっと待て、忘れるとかわけわかんない事を言うな」

「いえいえ、これが本当でして、申し訳ありませんがお願いしてもよろしいですか? たかが小娘、色欲(ラスト)のあなたならすぐにどうとでも出来るでしょう?」


 ……何か違和感がある。忘れただけじゃないな。いや「わざと忘れた」のか。


「我が教会に所属する人間とは言え、手加減は要りません。徹底的に遠慮なく惨めな姿にしてあげて欲しいですね」


 そこまで言われて、俺は察した。


 たしか聖女の名前はイリス。謁見中に馬鹿にされたかなんかしたんだな。


「はぁー……オレは別にパシリじゃねえんだぞ」


 罪源職は全員が性格破綻者だ。だからまあ、俺みたいなのが色々と動き回る必要がある。


「仕方ねえな、エルキ共和国コスタ領だったか? 用事を済ませたら向かうとするか」


 全く気が進まないものの、俺は仕方なくクリフォードの言う事をきくことにした。

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