閑話:第三の罪源11

 昼の街中だというのに、往来には人一人おらず、居るのは私達と彼らの四人だけ、そんな異常な状況の中、柔らかな声音で彼は静かに語る。


 男の髪は色素の薄い金髪で、緩やかにカールした毛先の一つ一つに光を溜め込んでいるようだった。


「お師匠様……」


 しかし、彼らが持つ剣呑な雰囲気は、イリスですら感じ取れるほどで、私は彼女を下がらせた。


「あー、アダム、相手がビビってる。オレに話させてくれ」


 アダムと名乗った男を諫めるように、隣にいたもう一人が声を掛ける。彼はアダムとは対照的で、浅黒い肌にウェーブの掛かった黒髪をしていた。


「おっと、すまないね……悪意も敵意もないんだ。それは信じてくれ」


 その言葉を聞いて、アダムは頭を下げて後ろを向く。それだけで妙な威圧感は半減した。


「ふう、悪いね、うちの首領はエルフなもんで、ちょっと俺たちとはズレてるんだわ」


――エルフ

 世界創造の折、生まれ落ちた伝説的な種族。彼らは世界の管理者として、人類とは距離を取って暮らしていると聞いている。私自身初めて見るが、人と同じ姿をしているというのに、その威圧感には圧倒されてしまった。


「そんな存在がなぜ私たちの前に?」

「いや、ちょっと君のことを調べさせてもらってさ、ハヴェル枢機卿……俺たちは、君に答えを教えられるんだ」


 ラストと名乗った男は語り始める。その言葉は軽薄だったが、その下にある蛇のよう気色悪さに、私はじっとりと汗をかくのを感じていた。


「――混血が迫害されたのはなんでだと思う?」

「っ!?」


 脳天を金槌で殴られたような衝撃だった。


「なぜ怠惰、いや悲嘆にくれることが罪なのか分かるかい? いや、そもそもなぜ罪源職が罪源職であると規定されたのか……その答えを、知りたくはないかい?」


 彼の言葉は毒を持っていた。


 だが、それ以上に甘く、魅惑的な真実を持っていた。


「……っ、いや、興味はない」


 誘惑に屈しそうになった時、背後にいるイリスの温もりを感じた。彼女を聖職者として育てなければ、私はセラに顔向けできない。


「その子がそんなに気になるか? これを見ても?」


 そう言って、ラストは一枚の紙を広げて見せた。それは教会が発行する報告書だった。その一部に赤いインクで印が付けられている。


――今週の殉教者 セラ 悲嘆者として回復の見込みが無くなった為。


「なっ!!?」


 印の部分を読んだ私は、思わずその紙に飛びついていた。


 なぜ彼女が、あそこまでの仕打ちを受け、その果てに殺されなければならないのか。


 ありえない、こんなことは……


「どうだい、知りたくなったかな?」


 全ての時が止まったような気持ちでいると、男の声が聞こえる。私は、その問いに――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る