第42話 イリス1
出発した後も、何とも奇妙だった。
いつも通りの反応を返す聖職者や護衛騎士は、もちろんいるのだが、その数が村に入る前の半分くらいになっていた。
出発前に謝りに来た修道女や、他の同行者は宣言通り態度を改め、謝りに来なかった連中も、俺たちを遠巻きに見るだけで何もしてこなくなっている。
「おい」
野営の準備も終わったので、大柄な体を丸めてふてくされるモーガンに、声を掛ける。設営の手伝いもせず何をやってるんだか。
「ああ? 気安く声を掛けるんじゃ――ってお前かよ……」
彼は覇気の無い反応を返して、そっぽを向いてしまった。
「聖女と話がしたい。構わないか?」
「ああ、勝手にしろってんだ」
やはり覇気がない。周囲の対応が変わった事と、何か関係があるのだろうか?
「……」
まあ、考えても仕方ないか、話のついでにイリスに聞こう。
兵士長の許可を取り付けたことを盾に、俺はイリスのいる馬車に乗り込む。長旅でずっとこの中に押し込められるのは、なかなかに気が滅入りそうだ。
「入るぞ」
「誰っ!? ……って、あなたか……」
馬車の戸を開けると、締め切られた部屋特有の淀んだ空気が肌を撫でる。その中に居たのは目を赤くしたイリスだった。
「さっきモーガンにもその反応をされた」
「あいつと同レベルの知性って言いたいの?」
機嫌が悪そうな返答だ。
「換気(フレッシュ・エア)」
馬車の中で空気が回転し、外の空気と入れ替わる。
威力よりも副次効果の方に特化している風属性魔法は、やろうとすればいろいろなことができる。例えば一瞬で部屋の換気をするとか。
「知性が同レベルかは知らないが、機嫌は同レベルだな」
俺は新鮮な空気になった馬車の中に踏み込んで、イリスの対面に腰を下ろす。
「……ほっといてよ」
「飯も食わず。こんな淀んだ空気の馬車に閉じこもってる奴をほっとけるわけないだろ」
空腹と悪い空気は、感情を不安定にさせる。
少なくとも片方、できれば両方を何とかしてから悩み事は考えるべきだ。
「お腹減ってない」
「今日なにも食ってないだろ。動いてないから空腹感がないだけだ」
「本当だって」
子供かよ。とは思ったが口には出さないでおいた。
でも、あの村の子供たちを見た後だと、ただの駄々っ子に見えるってのも確かなんだよな……
「ったく、しょうがねえな」
懐をあさる。アンジェをあやすためにとっておいたはずなんだが、まさかこいつにも使う羽目になるとは。
「ほら、せめて頭を回すだけの栄養は取れ」
赤色の宝石飴を取り出して、無理矢理イリスに渡す。子ども扱いされたと思ったのか唇を尖らせるが、俺が促すと彼女はしぶしぶ口に運んだ。
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