閑話:アンジェ4
「おい、平気か!?」
「う、うん……」
「早く穢れ血から離れろ! お母さんに怒られるぞ!」
ぽかんとした女の子を、少年の肩方が引っ張る。
「だ、大丈夫かな? また水浴びすれば穢れは落ちるよね?」
「大丈夫だよ! この水源には聖なる力があるって言ってたもん!」
「ちょっと、あなた達! なんてことを言うの!?」
汚いものに触れてしまったような反応をする少年たちに、イリスは声を上げる。命を救った人間に――いや、先程まで楽しく遊んでいたというのに、混血というだけでこれほどまでに反応が変わるのは、余りにもひどい。
「だって穢れ血は――」
「だってじゃないでしょ? さっきまで楽しそうに遊んでたじゃない! 混血がそんなにいけない事?」
怒りの声を上げる聖女に、子供たちは困惑しているようだった。今まで魔物の血が混じった混血は、穢れたもので触ってはいけないもの。そう教えられてきたのだ。
「あの、そんくらいにしてあげて欲しいっす」
そんな状況で、言葉を挟んだのはアンジェだった。
「アンジェさん……?」
「分かってるっすよ、アタシの為だってのは……でも、この子たちが暮らしている世界では、それが正しいんっす」
アンジェは諦めたようにそう言って、口元を緩める。その表情は今にも泣きだしそうだった。
「でも、ダメだよこんなのは、間違ってる」
「優しいっすね、イリちゃん、でも――っ!?」
アンジェは不意に気付いたように、水源である川の向こうを見た。
その表情からは今までの悲しげな感情は抜け落ちて、冒険者としてのそれとなっていた。
「イリちゃん、今すぐ子供を連れて村まで逃げて欲しいっす」
「アンジェさん?」
「あっ! あそこ見て!」
子供が指さした先には、鱗に覆われた皮膚を持つ、人型の魔物がこちらへと向かってくる姿があった。
「そういうわけっす! 管理人さんに言えば何かしらの合図を村に送ってくれるはずなんで、それも頼むっす!」
そう言ってアンジェは水場から外に出ると、自分の頬を両手でぴしゃりと叩いた。
「アンジェさんは?」
「村からの増援と、ニル兄が来るまで足止めっす! 水源設備も守らなきゃっすから!」
「えっ!? で、でも丸腰じゃ……」
イリスは驚いた。いつもの板金鎧に大盾を持った姿ならまだしも、完全に丸腰の今、彼女が無事にそれを完遂できるイメージが全くできなかった。
「当然ながら丸腰はかなりきついっす! だから早くニル兄呼んできてくださいっす!」
アンジェの言葉にイリスは納得し、すぐに管理棟へ事態を伝えると、子供たちの手を引いて、出来る限り早くその場を離れたのだった。
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