第34話 第四の罪源3

 一歩、アンジェの側に着地し、銛を構えた蜥蜴人(リザードマン)の首を切断する。

 二歩、アンジェを抱え、村人たちの方向へと方向を変える。

 三歩、力を籠め、精一杯魔物から距離を取る。

「――あ、あれ?」

「ったく、こんなボロボロになるまで粘りやがって」


 舌打ちを漏らすが、五体満足なアンジェを見て内心俺は安心した。


「へへ、申し訳ないっす」

「……今は緊急時だ。再生薬しかないが耐えられるな?」

「もちろんっす!」


 俺はアンジェに再生薬の入った小瓶を渡すと、水源の方を見る。そこには鱗を持った人型の魔物が押し寄せており、その一部はこちらへ向かってきているようだった。


――蜥蜴人(リザードマン)

 人型の魔物の中では、小鬼や豚鬼と違い一段階強い分類をされている。


 主に水場に現れ、魚を主食とする。人間に対して強い攻撃性を示しているのも特徴だ。


「落ち着いて道を下れ、途中でイリスと合う事があれば二人で一緒に居ろ」

「あ、でも、アタシも戦った方が……」

「丸腰で何言ってんだ。いいから下れ。あと――」


 何か言い返そうとしたアンジェに、反論は許さないとばかりにキッパリと言い返す。


「よく頑張ったな」

「あっ……わわっ!?」


 頭をくしゃくしゃと撫で、髪のボリュームを出す。微妙に元気のない声と、頭の角が露出していることから、また辛い事があったんだろうと想像できた。


 水遊びの合間に角が見えて、子供に何か言われたとか、そんなところだろうか? 何にせよ、そんなメンタルでここまで耐えたんだから大したものだ。


「ありがとっす!」


 満面の笑みでそう答えるアンジェを見て、俺は頷いてから再び蜥蜴人の群れへ駆けていく。


 ……慰めることはできる。だが、あいつが何も言わないなら気付かない振りをするべきだろう。その分、俺が優しくしてやればいい。だが、あいつが助けを求めた時は全力で応えるつもりだ。


「雷撃っ!!」

「ギャエエエエ!!」


 牽制に雷属性の魔法を放つ、蜥蜴人は水場に居る種族だけあって、雷属性には耐性が低いのだ。


 蜥蜴人の群れに飛び込み、魔力収束炉を再び構える。


「氷結っ」

「――ッ!!」


 凍てついた蜥蜴人を、魔力収束炉で思いっきり叩くと、それは赤黒い飛沫をあげて砕け散る。


 この種族は温度変化、特に冷気に弱い。運動機能が露骨に低下し、丈夫な鱗は凍結によりボロボロに破壊される。


「アンジェが世話になったな、次は俺の番だ。なに、安心しろ……お礼はたっぷり用意してある」


 魔力収束炉から排熱を行い、俺はナイフを構える。

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