閑話:アンジェ1

「やー、こんな旅の途中で水浴びできるなんて、夢にも思わなかったっすよ」


 水源への道を意気揚々と歩きながら、アンジェは笑う。


「それもこれもイリちゃんのおかげっすね」

「別に……村の人が教えてくれただけじゃない。子守ついでにって」


 そう言って、イリスはため息交じりに前を見た。そこには元気よく笑い声を挙げながら、彼女たちに先行して道を歩く子供たちが居た。


「聖女様! 早く水場まで行きましょう!」

「早く、お昼になると暑くて嫌だから早く行こ」

「も―二人とも子供なんだから、聖女様は足が遅いの! ちゃんと考えてあげて!」


「あはは……ありがとう」

(足遅いんじゃなくて君らがはしゃぎすぎなんだと思うけど……)


 イリスの見立てでは、同い年のおとこのこ二人に、少し年上のおんなのこが一人、とても仲がよさそうなのを見ると、家も隣同士とか、近所なのかもしれないと思った。


「にしても、もうちょっとで見えてくるって聞いてたけど――あっ」


 石畳で出来た道が見えはじめ、その先にきらめく川のせせらぎがあった。


『水場だー!!』

「おっと、ちょっと待つっすよ」


 子供たちが走りだそうとするのを見て、アンジェはその先に回り込む。その小柄な体躯で騎士をしているだけあり、彼女の身体能力は常人よりもかなり優れていた。


「管理してる人がいるっすから、きちんと挨拶してから行くっす。その後遊ぶっすよ、返事は?」

『はーい!』


 そう言ってアンジェは子供たちを誘導して管理等へ向かい、許可を取りつけてきた。


 許可されたのは水源から流れる水を引いたため池で、数人で遊ぶには十分な広さだった。


「んじゃ遊んでいいっすけど、アタシ達が見えなくなる場所には行っちゃダメっすよー?」

『わかったー!』


 アンジェの言葉を素直に聞く子供たちに、イリスは素直に感心していた。


 大きな岩に腰掛けて、足を浸すとひんやりとした気持ちよさが足の疲れを癒していく。イリスは気の抜けるようなため息をつくと、アンジェに話しかけた。


「子供の扱い、上手なのね」

「まあ、アタシも子供みたいな見た目っすからねえ」


 アンジェも足を水につけてちゃぷちゃぷと感触を楽しんでいる。板金鎧(プレートメイル)に大盾を持ったいつもの姿とは打って変わって、今日はレギンスにシャツとずいぶん軽装だ。


「ガキ大将みたいに思われてるんじゃないですか?」

「そうかしら? 年上のしっかりしたお姉さん。みたいに見えたけれど……」


 照れたように笑うアンジェに、イリスは思ったことを口にする。その言葉を聞いて、アンジェは少し寂しげに息をついた。


「誰からもそう見えてるならうれしいっすねえ……」

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