第33話 第四の罪源2
「行くと思うか?」
「いえ、全く。少なくとも『現時点では』無理でしょう」
いつでも動き出せる姿勢を維持したまま会話を続ける。ハヴェル神父は俺の威嚇など眼中に無いように目を伏せた。
「ですが、心は我々に傾いている筈です。今まで見てきたでしょう。利己的で自堕落、そして無知蒙昧な人々を」
その言葉が何を指しているのか、俺にはすぐに分かった。今まで同行していた隊列の人間たち、そしてこの村の人間たちだ。
「利己的で自堕落なのは、罪源職も同じだろう」
「そうです――いえ、違います。野良の罪源職ならまだしも、我々は違う」
神父は首を振り、俺の問いを否定する。その表情は柔和な笑みを浮かべていて、慈愛に満ちているかのようにも見えた。
「新しい世界を作るための礎なのですよ、真に人が安寧を得られる世界の」
「信用できないな」
その信念を持った動きなら、隊列を襲うなんてことをする筈が無い。やっていることは安寧とは無縁の破壊行為だ。
そう思って俺がきっぱりと断ると、神父は当然それを分かっていたかのように、あっけらかんとこう答えた。
「でしょうね」
瞬間、村の方角から轟音が響いた。
「なので、我々にもっと心を寄せてもらおうと思うのです。彼らが身の危険を感じた時、どのような――」
「加速っ!」
支援魔法発動させ、最大の歩幅で村へ向かう。何が起きているのかは理解できないが、ハヴェル神父が敵対者である事だけは分かる。この状況で彼と一緒に居ることは、良い状況には転がらない。
……そう考えたのは、建前で、実のところは違う。
柔和な笑みの下に、どれほどの悪意が潜んでいるのか、想像したくなかったのだ。
「水源だ! 水源を守れ!」
「先には行かせるな!」
「すまない! 応援頼む!」
村へ戻ると、そこは慌ただしく走り回る人々でいっぱいだった。
「あっ、おい、一体何が……っ!」
何が起きているのか、それすらも聞ける雰囲気ではなかった。仕方なく水源という言葉と、人の流れを追って川上の方へと走っていく。
「あっ! ニール! ニールっ!!!」
川上――水源への道で、イリスが手を振っているのが見えた。
「どうした!? アンジェは!?」
彼女は確か、今朝アンジェと共に水遊びに出かけたはず。
「そう、大変なの! 魔物の群れが水源に現れて、みんなを逃がす代わりにアンジェさんが――」
「っ!!」
話の途中だが、大体何が起きたかは理解できた。俺は魔力消費を抑えつつ、全速力で水源への道を駆けあがっていく。
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