閑話:すべての人間が笑うために1

 襲撃者はイリスたちを追いかけ隊列からはすぐに居なくなった。


 罪源職さえいなければ銅等級の魔物の群れである。襲ってきていた狂力熊たちの掃討も、騎士と聖職者たちの連携によりなんとか済ませられた。


 イリスの捜索は、掃討が終わった後に人員が割かれることとなった。


 しかし、魔物の襲撃により怖気づいた聖職者たちは、聖女の捜索よりも自身の安全の方が大事なようで、数人の捜索者を出す事しかしなかった。


 そうしている間は隊列も進むことも出来ず、野営をここですることとなった。


「えっ、ちょっ、アタシが入れないってどうしてっすか!?」


 太陽の色が赤色に染まりゆく中、アンジェが抗議の声を上げる。


「んなもん当然だろ。アラートに反応する穢れ血なんて、俺たちの寝床に入れられる訳がねえ」


 モーガンは取りつく島もないという風にアンジェを追い払うジェスチャーをする。


 ニールの強硬姿勢とイリスの意向によって同行を許されていた彼女は、二人がいない今、教会がうち出す迫害政策の影響をもろに受けていた。


「そんなこと言っても、アタシがいなけりゃ罪源職の攻撃を止められ――」

「だあああっ!! うるせえな! そんな文句あるなら神父様たちの許可を取って来いよ!」


 そう言って、モーガンは周囲にいる聖職者や騎士たちを指さす。


「許可って……」


 アンジェが周囲を見渡すと、彼らの視線が突き刺さる。


――軽蔑。

――嫌忌。

――憎悪。


 あらゆる負の感情が彼らから、アンジェの小さな体へと向けられ、彼女は口を噤んでしまう。


「文句がねえならこれで終わりだ。聖女様の捜索は明日に回す」

「そんな! ねえ待ってよ! アタシの寝床もだけど、早く探さないとニル兄も危ないのに!」


 彼女の抗議は聞き入れられるはずもなく、モーガンの側に控えていた騎士たちがアンジェの身体を掴み、結界の範囲外へ連れさそうとする。


「兵士長殿、少々待っていただけますかな?」


 そんな状況を見かねたのか、一人の巡礼神父が声を上げた。


「あ?」

「魔物の襲撃があった直後の環境で、混血だからという理由だけで同じ人間を排斥するのはどうかと思いましてね」


 目を引く金髪に禁欲的な痩躯、ハヴェル神父だった。


「ハベおじ……」

「ちっ、巡礼神父かよ、だったらお前も隊列を離れて、一人でその穢れ血の面倒見ろよ」


 モーガンが嫌味ったらしく口角を吊り上げると、ハヴェル神父は眉一つ動かさずに、その挑発を受け取った。


「ええ、元よりそのつもりです……アラートがない状態での野営はそちらも不安でしょうから」

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