第21話 隊列防衛戦4
一歩、人垣を避けるように跳び上がり、仮面の男を追い越して馬車の前でナイフを抜く。
二歩、鞘が宙を舞う間に地面を蹴り、その勢いで男の腕を切り飛ばす。
三歩、男の背後に着地し、身体のバネを使って跳び蹴りを背中に当てる。
「はあっ!!」
「っ!!!」
腕を無くして重心がずれたのと、俺が目一杯けり飛ばした事によって、男は地面に倒れ込む。
俺はそのまま男にかけ寄ると、のこった腕の関節を極めて、地面から起き上がれないようにする。
「なぜ襲った。言えっ!」
男を尋問しつつ、視線で男を捕縛するように周囲の騎士へ訴える。
「……」
「っ!?」
だが、その意思が周囲に伝わった瞬間、俺は仮面の男にはね退けられた。
何故?
確実に腕は動かせない状況にあったし、もう片方の腕は切り飛ばしていたはずだ。
いくら身体能力を強化された罪源職とは言え、身体構造は人間の物のはず――
「――!!」
跳ね除けられ、態勢を崩した俺の目に映ったのは、失ったはずの腕を生やしている男だった。
男は俺に構わず。再び聖女――イリスのいる馬車へと走り出す。俺も即座に体勢を立て直し、その後に続いた。
「聖女様をお守りし――ぐああっ!!」
「慌てるな! 密集した陣形を……」
「む、無理です! 狂力熊に対する防衛戦力が――」
「……」
男が持つ鉄の棒は、まるで刃こぼれを起こした剣のようにいびつな傷跡を残し、騎士たちを打ち倒していく。俺はその姿を追ううちに、彼の身体をうっすらと緑色の光が包んでいることに気付いた。
――持続回復(リジェネレイション)
回復属性のうち、中級に分類されるこの魔法は、使用者の意思か、意識が途切れるか、魔力が枯渇するまで肉体を持続的に再生する魔法だ。
回復効率は使用者の回復マスタリーによるが、腕さえも再び生やすとなると、回復マスタリーを持っている上でそのレベルも8以上のはずだ。
「――っ!!」
騎士たちに進路をふさがれているため、男の足が遅くなる。俺はそれを避けるようにして、イリスの載る馬車の前までたどり着いた。背後から攻撃も考えたが、凄まじい勢いで騎士を倒していく男を見て、背後からだとしてもまともにやり合えるとは思えなかったからだ。
「っ、ニール!?」
「説明は後だ! こい!」
馬車のドアを乱暴に開け。イリスの腕を掴んで引き寄せ、無理矢理立たせる。少なくとも今この馬車を中心として防衛戦をするのは得策ではない。
「走れっ!」
視線で俺も後からついて行くと伝え、俺はちらりと後ろを見る。
「――」
奇妙な話だが、仮面の男と視線が交わったような気がした。
男は身体から緑色の燐光をもらしつつ、こちらへ駆けてくる。
「空圧波!」
空気の弾丸が男をとらえ、吹き飛ばす。風属性攻撃魔法は威力が低い代わりに、制御しやすいかまいたちや、相手と距離を取りたいときに重宝する効果を持つ物が多い。
つまり、今の攻撃は時間稼ぎにしかならないと知っている。
だからこそ俺はそれ以上の確認をすることなく、森の奥へと逃げていくイリスの後を追った。
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