幕間

幕間:罪源の開闢

 ニールたちが帰った後、二人の男が夜半過ぎに村を訪れた。


 二人とも旅装に身を包み、普通の冒険者風の姿をしていたが、彼らが纏う空気は、異様な、生命を脅かされるような物だった。


「魔眼が奪われたって聞いて来たけど、何か奇妙だな」


 浅黒い肌に、ウェーブの掛かった黒髪を持つ男は、教会に横たわる死体を見てそう言った。


「開拓者が死んでいるのは、まあ納得は出来る。だけどなんでこんなところに烙印持ちが死んでるんだ? なあ、ラース」


 男は、もう一人に声を掛ける。ラースと呼ばれた男は、顎に手を当てて小さく唸った。


「……なんにせよ、本人に聞くのが一番だ」


 浅黒い肌の男と違い、彼は落ち着いた声色だった。目を引く黄金色の髪に、不健康そうな色白の、やせこけた身体をしている。


「出来るのか?」

「それを見る」


 ラースがしゃがみこむと、カインの死体を検分していく。


 瞳を調べ、身体の鮮度を測り、体内の血液を調べる。


「死後丸一日程度か……損傷も少ない、これなら蘇生は可能だ。腹のナイフが抜かれなかったのが幸運だったな」


 ラースは丁寧に刺さったナイフを抜き、跪いて右手に小型の杖を握ると、魔法を発動させる。


「蘇生復活」


 鮮緑色の光がカインを包み、その光が教会から漏れ出る。煌々と燃える炎のように激しく、力強い光は、ゆっくりとカインの身体を癒し、彼の身体に命を再生させていく。


「流石は元聖職者、回復属性はプロフェッショナルだな」

「制限はあるがな」


 ラースは回復を終えると立ち上がり、膝に着いた埃を払った。


「ま、なんにせよ事情を本人から聞けるし、空席になった烙印持ち強欲者の後釜にも出来そうじゃん? プライドも喜ぶだろうし、儲けもんだな」


 浅黒い肌の男は、人懐っこい笑みを浮かべると、ラースの肩を叩く。


「……それよりも、魔眼の行方が気になる」


 しかし彼は喜ばずに、考え込むように顎に手を当てる。


「え? そんなんこいつから聞けばいいんじゃね?」

「死後一日も経っているなら、起きるまで数か月は必要だろう。その間に奪還不可能になるのは避けたい」


 楽観的な男とは対照的に、ラースは慎重だった。


「へえ、じゃあ――」

「ああ、まずは動こう。罪源の開闢(デッドリーシンズ・ファウンデーション)として」


 憤怒者(ラース)はそう言って、意識の無いカインを担ぎ上げ、崩れた十字架を憎々しげに睨みつけた。


「偽なる神を崇める盲目の愚者に、真実を」


 その言葉には深く、地の底から溢れ出る溶岩のように、熱く昏い憎悪と怒りが込められていた。

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