第26話 ドラゴンスレイヤー1

 満月が中天に登る頃、俺とユナ、そしてモニカは架橋地点のすぐそばまで来ていた。


 氷竜はどうやら橋の近くに巣を作ってしまったようで、そこでは木々すらも凍り付いて、一面の銀世界が広がっている。


 今回、俺が持った装備は変わらず、急造杖を三本だ。


 もう少し持って行きたいところだが、氷竜の戦闘力を鑑みて、これ以上の荷物は動きが制限されてしまう為、持つわけには行かなかった。


 防寒装備もかなり重点的に揃えていて、手袋はもちろんの事、コートやブーツなども、厚手の毛皮で冷気を遮断できるように作ったものを選んでいた。


「モニカは知っていると思うが、氷竜は本来一つのパーティで挑むような物じゃない。ましてや三人で挑むのは、かなり分が悪い戦いとなる」

「うん、サーシャとアンジェが揃っていても、なるべくなら挑みたくない……」


 モニカは深く頷いて、氷竜の脅威を語る。


「でも挑むんでしょ? 勝算はあるの?」

「ああ、ユナが前衛、俺が中衛、モニカが後方の布陣で戦う」


 ユナの問いに、俺は作戦の概要を伝える。


 まずはフル強化の載ったモニカの火属性魔法で、氷竜の体を覆う冷気を吹き飛ばし、ユナが不死種の再生力を駆使して前衛を務め、氷竜を一か所に留める。


 その間にモニカはユナを巻き込んででも最短で魔法を打ち込み続け、俺は前後へ支援と敵の撹乱を行い続ける。


 もちろんモニカの魔法を発動させるときはユナに防御魔法を使うし、モニカ自身にも可能ならば強化魔法を使う。俺のポジションはそのバランスが大事だった。


「いいか、モニカの魔法が発動した瞬間、作戦開始だ」


 二人は頷いて、モニカはコンセントレーションをはじめ、ユナは氷竜に気付かれないギリギリの距離まで近づいて、その茂みに身を隠した。


「――……」


 モニカのほとんど消え入りそうな詠唱が聞こえたのを察して、俺は魔力強化を発動する。レベルが少しは上がっている筈なので、威力には期待できるだろう。


 支援強化が成功したのと、急造杖がぼろりと崩れるのを確認すると、俺はモニカから離れる。守るならすぐそばに居たほうが良いと思うが、魔法が常に一か所から放たれている状況は、氷竜に狙われやすいと思ったのだ。


 そうして俺はモニカやユナとはまた別の離れた場所、大体三人の位置関係が正三角形になるくらいの位置に、身をひそめた。


 そして、モニカの詠唱(ディレイ)が終わるのを、警戒しつつ待つ。


「……」


 月の光を浴びた氷竜は、幻想的な光を纏って、氷によって作られ始めた巣の中心で輝いている。


――もしかすると、既に卵を産んでいるかもしれないな。


 氷竜は、ある程度まで自分の巣を発展させてから卵を産む。零下二〇〇度にもなる体温は、いくら氷竜の卵と言えど悪影響だった。


 彼らは卵を氷によって作った巣の中心に置き、なるべく親の体温が及ばないようにして卵を育てる。


 抱卵の必要がない親は何をするかと言うと、外敵の排除である。半径数キロに及ぶ範囲にいる生命を無差別に凍り付かせ、卵の安全を守るのだ。それに巻き込まれれば、不死種だろうが大鬼だろうが関係はない。凍てついた中で自らの身体が崩れていくのを見守るしかなくなるのだ。


「――っ」


 視界の隅で赤い閃光が迸り、氷竜の身体が鮮烈な業火に包まれる。それと同時に身をひそめていたユナが駆けだして、作戦が始まった。

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