第13話 モニカ

「――ってことは、パーティから夜逃げ同然で逃げてきた……てことか?」


 俺の問いに、モニカは頷く。


「サーシャさんに協力してもらって、途中まで馬車で、途中からは歩いて……」


 女の子の一人旅はかなりの危険が伴う。それでもここまで来るという事は、相当な覚悟があったのだろう。


「はあ。そりゃ大変だったな、しかし……」

「……?」


 あのパーティから脱落するのは、サーシャかアンジェが先だと思っていた。モニカは抜け出せずに残った片方と一緒に抜けるか、カインがクビ宣言すると予想していたんだが、見事に裏切られたな。


「意外と勇気あるんだな、モニカ」

「えへへ……ニールに会いたかったんだもん……」


 頬を抑えてモニカは照れる。そういえば、こいつは時々予想だにしないことをする奴だったな。


「それで、どうした? カインがどうしようもない奴だってのはまあ、分かってたことだが……」

「えっと、その……ニールに帰ってきて欲しいな……って」


「え、それはやだ」


 話を聞くに、宿代未納の件で痛い目を見たカインが、モニカに全責任おっかぶせて好き放題やってるようだ。


 そんな環境に、俺は絶対に帰りたくない。


「俺は俺でこの村から離れられないしな、むしろモニカがこっちに合流すればいいんじゃないか?」


 丁度もう一人戦闘要員が欲しかったところで、これは渡りに船だった。三人もいれば川までの道を整備できるだろう。


「……いい、の?」


 モニカは想像もしていなかったかのように言葉を漏らす。


「ああ……ユナ、問題ないだろ?」

「ええ、移住申請でも定住申請でも、数日中には承認されるわ」


 今までの話を総合して、俺もモニカもあのパーティに戻ったら、死ぬほどこき使われて潰れるのが目に見えていた。だったら、もう俺たちは抜けたままにしてここで開拓しつつ暮らすのがベストなんじゃないか、という考えが浮かんできたのだ。


「っ、ぅぁ、ああぁっ……」

「ちょ、モニカ!?」


 彼女の目から大粒の涙が溢れ、俺はぎょっとした。


「だって、だって……! もうモニカはずっとカインから逃げられないと思ってたから……っ! だから……!」

「わかった、分かったから落ち着け! ああもう、こういう時はどうすりゃいいんだ!」

「ニール、抱きしめるのが紳士のやることよ」

「せめてこういう時にボケを言わないでくれるかな!?」


 大きくしゃくりあげる彼女を何とかなだめながら、俺はモニカにふたたびベッドを貸してあげることにした。



――



彼女を再び寝かしつけ、俺とユナは向き合って座っていた。


「……とにかく、渡りに船だ。東の魔物集落を殲滅する予定を立てよう」

「それも良いけど……ニール、あの子をちゃんとフォローしてあげるのよ」

「? まあ、もちろん戦闘での支援は惜しまないが」


 ユナは大きくため息をつく。


 長らく親代わりになっていたからか、ユナは俺に対して過保護なところがある。これもその一つだ。


「はぁ……お母さん貴方の将来が心配よ」

「冒険者として生活は安定していたが?」


 さらに大きいため息。なんだ、何かやらかしたか?


「あのね、パーティを飛び出して、一人心細い思いをしながら、貴方に会いに来たの。それをしっかりフォローしてあげなさいって言ってるの。分かった?」

「あ、ああ」


 自分で飛び出して、俺のところまで来るなんて、そう難しい事でもないだろう。それを褒めるって事は、モニカを馬鹿にしてないか?


 ……と、喉まで出かかったが、こういう時のユナは本当に怖いので、それ以上何も言えなかった。

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