第14話 討伐準備

「せめて……石英と大鷲の風切り羽があればいいんだけど」

「行商で人が訪れる訳じゃないし、支援物資に魔法触媒は含まれていないんだ。エレンに無理を言いすぎるわけにもいかないし、仕方ないだろう」


 俺とモニカは準備のために村を歩き回っている。


 急造の物見櫓ができてからは、おちついて襲撃等に対応できているが、なるべく早い段階で防衛するためのきちんとした柵や防壁を作りたいところだ。


「でも、杖が無いと……ニールも大変でしょ? 良ければモニカの杖を使ってもいいよ?」

「いや、そうしたとしても、今度はモニカが丸腰になるだろ、触媒なしの戦いに慣れてる俺が、このまま丸腰の方が総戦力は高くなる」


 普通、魔法使いは触媒となる杖に集中して魔法を発動させる。それが無いという事は、目印の無い状態で正確な測量をするような物だった。


「だからまあ、俺は急造杖で凌ぐつもりだ」


 三本ほどあれば大丈夫だろうか? 一応材料の目星は点いているが。


 建材を探す過程で確保した石灰岩と、廃材の中に紛れていたオーク材、そして……


「ニール、ここは?」

「村長の家」


 モニカの問いに答えつつ、俺はノックをする。


「はいはーいっと……あ、ニールさん、こんにちは」

「ああ、変わらず元気そうだな」


 メイが顔を出して、笑顔を返してくれる。


「どうします? お茶の用意くらいなら――って、あれ?」

「……」


 モニカは俺の後ろに隠れて様子をうかがっている。


「えっとー、初めまして?」


 メイがのぞき込もうとすると、モニカは俺の服を掴んで身を縮める。


「ぅー……」

「ああ、知り合いだ。ちょっと人見知りが激しいから、ほっといてやってくれ」

「は、はぁ……」


 不思議そうにモニカを見ていたが、メイはそれ以上追求しなかった。


 俺は室内にお邪魔して、一息ついてから話を始める。


「父親は?」

「えっと、今は開墾の進捗について話し合ってるはずですが」


 そうか、今は居ないのか。通商路を拓くことについて意見を貰いたかったが、仕方ない。


「わかった。じゃあ君への頼みごとを済ませよう……急造杖を三本作りたい。協力してくれるか?」


 体毛を貰いたい。という事をなぜこんな形で話すかと言うと、それは欲しいのが「乙女の」体毛だからだ。


「……はい」


 メイは顔を赤らめて、その髪を弄う。悪いとは思うが、現状これが最適解なのは確かである。


「むぅ……」

「いてっ」


 どすっ。


 モニカに足を蹴られた。


 まあこれは仕方ない。俺もデリカシーが足りてないと思う。あくまで現状、最善となる手段を取っているだけで、可能であれば遠くの町へ一人で向かって杖を購入したいところだ。


「っ……どうぞ、三本あります」

「すまないな、他人に頼むわけにもいかない」


 丁重に髪の毛を受け取って、俺はそれを触媒用の小袋に詰める。


「東の魔物集落を潰してくる」


 何に使うのか聞きたそうだったので、教えてやることにした。それに、髪の毛を貰うのなら、せめて何に使うかは知らせておくべきだと、俺は思う。


「集落を殲滅できれば、大規模な通商路までの道を整備することができる。道の舗装や渡し守の雇用で公共事業が増えるがな」


 既に昨日、ユナにその旨を伝えてくれるよう頼んでいる。後は村長の承認を待つのみだったが、今話しても問題ないだろう。


「そうですか、でも、かなり数が多いから難しいって、この間言ってませんでした?」

「ああ……それは、モニカが来てくれたおかげで解決した」


 俺はちらりと横に座る彼女に目を向ける。


「こいつは魔法のエキスパートだ。俺みたいな器用貧乏じゃなくてな」

「え、こんな子が?」


 メイが疑問を口にするが、まあ此奴の外見年齢から判断すると、そう見えるのも仕方ない。


「見た目で侮るなよ、単純な威力だけで言えば俺よりも上なんだ。モニカの魔法はいつも頼りになっていたからな」


 そう、範囲殲滅など、そちらの方に特化した魔法使いは貴重なのだ。俺はモニカの頭を撫でながら言う。


「ふ、へへぇ……」

「へーそうなんですねー」


 なんか気持ち悪い笑みを零しているモニカは放っておくとして、メイの顔色が変わったのが見えた。いや、笑顔ではあるんだが、何というか不自然な笑顔というか。怒ってるような……?


「じゃ、私は家の仕事があるんで」

「メイ?」

「あー忙しいなあ、用が済んだら出ていってくれます?」

「お、おう」


 何とも形容しがたい圧力に押されて、俺とモニカは出ていく事にした。



「……何だったんだ?」


 玄関を出た後、妙に機嫌のいいモニカを見ながら、俺はそう呟いた。

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