第12話 通商路を拓こう
三週間くらい経ち、修繕とこれからの生活に向けた備えがそろい始めた頃、俺は肩を震わせながら歩いていた。
コスタの冬は厳しいとはいえ、今年は特にひどいようだ。
「ニール、お客さんよ」
夕方の見回りから戻ると、ユナが家の前に立っていた。既に陽が落ちているので、不死種でも外を歩くことができる。
「ユナ! 家の中で待ってくれても良かったのに」
「お客さんは家の中、私は不死種の制約があるから」
不死種の制約、不老不死という圧倒的な強さを持つ不死種に、神が与えたいくつかの制約の事だ。
「ああそうか、言ってなかったもんな『俺の家に来てよ、ユナ』」
大きなものは日の光を浴びると消滅する。銀製の物で傷をつけられると三日は力を失う。などがある。これもそんな制約の一つ、招待されないと家に入れない。というものだ。
「ありがとう。ふふ、ニールの部屋に入るのは、久しぶりね」
ドアを開けて、ユナを招くと、彼女は一礼してから中に入る。
「……ん?」
部屋の中に来客は居なかった。
「ユナ、ホントに中に入れたのか?」
「もちろん……寝室かしら?」
見ると寝室へのドアが少し開いていた。俺は何の気なしにそこを覗くと、ベッドかこんもりと盛り上がっているのが見える。
「……図々しい奴だな」
「ふふ、まあいいじゃない。つかれていたみたいだし」
まあいいか、ベッドを勝手に使われたのはかなり不快だが、こんな僻地までわざわざ来たのだ、無下にする理由も無いだろう。
「じゃあ、客(アレ)が起きるまで、支援の話をしておきたい。紅茶なんて洒落たものは無いから、野草茶で我慢してくれ」
俺は頭を切り替えて、ユナとこれからの話をする。
「あら、希望している物資はきちんと振り分けてあげているはずだけど?」
エルキ共和国の中央評議会への難民申請が通るまで、現在はコスタの貯蔵庫から小麦や衣類等の生活必需品を受け取っている。定住を前提とした場合、三年間は徐々に量が減っていくものの、支援をしてもらえることになっている。
「衣食住に関係する物だけでは今後先細りするだけだ。通商路や農地の開墾整備もしたい。今後彼らが自活できるように」
現状、この村は廃村を改修しているため、まるっきりゼロからのスタートというわけではないのだが、それでも発展度合いで言えば、前の村の一割も無いだろう。特に人の出入りが皆無なのが危険すぎた。冬を越して、農地が復活したところで、ここへ通る外部の人間がいない。塩や情報、人が通らない村は、先細りするだけだ。
「なるほどね、でもそれは難しいかしら」
「……やはり、東の魔物集落か」
この村の東には大規模な通商路があり、西はエルキ共和国の首都、ルクサスブルグがある。その二つをつなげるように道を拓ければ、かなりの出入りを期待できるだろう。
だが、それを阻むのが東にある大規模な魔物集落と、幅の広い川だった。
「そうね、中央評議会で討伐依頼の議題を提出するにしても、エルキ共和国はいま、隣国であるオース皇国との国境で起きた魔物討伐で、兵士をかなり消耗しているって聞いているわ。難民の為、しかも緊急性の無い事柄に対して、軍を動かすことは期待できないわね」
「そうか……」
顎に手をあてて考える。魔物の集落はかなり規模が大きいが、その実、魔物自体の危険度はそこまで高くない。触媒なしでも俺とユナ、あと一人戦力になる奴がいれば何とかなりそうだが……
「ふぁ……」
考えていると、寝室のドアがあくびと共に開かれる。どうやら図々しい来客が目を覚ましたらしい。
俺はそちらを向いて、その非常識な客を見る。そこには予想外の姿があった。
「あっ、ごめんなさい、ベッド、勝手に使っちゃった……」
「モニカ……?」
カインと共に分かれたパーティメンバー、モニカがそこにいた。
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