第11話 はるか遠きパンへの道

 探査眼で偵察し、孤立している土巨人を見つけ出しておびき寄せる。


 やる事は簡単だ。おびき寄せるのも、木の枝を軽く揺らすだけでも十分。


「ゴゴッ……?」


 彼らの探知能力は低いとはいえ、全くの木偶じゃない。あからさまに不自然な物音には反応するのだ。


 着かず離れず。音を出しつつ土巨人を誘導する。ある程度土巨人の集落から離れたところで、俺は彼を仕留めることにする。


「岩槍っ!」

「ゴッ……!?」


 地面が盛り上がり、鋭い棘となって土巨人を貫く。


 大きな閃光も音も発さない地属性魔法は、こういう隠密行動時には結構役に立つ。


「よし」


 木陰から姿を現し、魔物としての形を保てなくなった土巨人を土嚢に詰めていく。さすがに粘土は重い。全部は持っていけないな。


 ちなみに、土巨人は地属性を無効化する耐性がある。まあ、土で出来た人形だから当然と言えば当然なのだが。


 それを地属性で倒せるのは、俺のスキル「耐性貫通」のおかげだ。このスキルは前のパーティでも活躍していた。


 ……うん、支援職をやらされるまでは。


 今思い出すと、そこまで義理も無いのになんであんなに必死になってたんだろう。という気持ちも湧いてくる。彼らは無事だろうか、そういえば宿代の支払処理しないで飛び出したな……まあ、誰か払ってるだろ。


 そんな事を考えながら、俺は村まで帰ってくる。既に陽が傾き始めていて、暖炉の先からは煙が上がっていた。昨日のうちに分かっていた事だが、老朽化が酷いのは窯だけで、暖炉の建材は存外しっかりとしていた。


 冬期の冷え込みが厳しいので、暖炉だけは丈夫に作っている。コスタ流の建築が為せる業だった。


「おや、ニールさん。おかえりなさい」


 村人のひとり、壮年のおじさんが声を掛けてくれた。たしか村ではパン屋をやっていた……って聞いてる。じゃあ彼に渡せば作ってくれるのでは?


「ああ、ちょっと粘土を取ってきていた。窯の修復に使えないか?」


 肩に抱えた特大の土嚢を地面に置いて口を開く。中には赤褐色で可塑性のある土が詰められている。


「おおっ、有難い! ……でも、それは僕じゃなくて大工に渡してほしいな」

「村長に?」

「ああ、違う違う、そっちのダイクさんじゃない。僕はパンを作れるけど、小麦粉も窯も作れないんだ。だから窯を作れる職人にこれを渡してくれるとありがたい。もちろん小麦もないし、風車臼とかも全部壊れちゃってるから、パンにたどり着くのは結構大変だよ」


 まあ、だからおいしいんだけどね。そう言って、パン屋のおじさんは大工のいる場所を俺に教えて去っていく。


「……とおいなあ」


 なんとなく食いたくなったパンが、あまりにも遠い。俺は空腹を訴えてうなりを上げる腹をさすった。

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