第10話 粘土採取に行こう
明け方になり早起きな住人が起きてくるころ、俺は入れ替わりで睡眠を取り、昼食前に目を覚ました。
常に気を張って探索や偵察をするのは得策ではない。そういうわけで俺は朝食(昼食でもある)の干し肉をかじっていた。
「おや、ニールさん。お昼はそのくらいで大丈夫なんですか?」
子供を連れたおばさんが声を掛けてくれる。
「ああ、俺はさっき起きたばかりだからな、胃も起きてないし、あんまり詰め込むと胸やけがするんだ」
昨日避難してきたばかりだというのに、村の人々は家の修繕と改築に取り掛かっていた。
集落近辺の木を切り倒し、まっすぐなものを選別し、積み上げていく。残っている曲がった木材は鉈で細かくして薪にしていく。
荒れ放題だった畑に鍬を突き立て、雑草の除去と共に苗を植える土壌を作る。
各々の作業は遅々として進んでいない。というよりも着手したてで進捗が見えない状態だったが、それでも生きようとする強い意志が見えた。
「だめよぉ、起き抜けならもっとしっかり食べなきゃ」
「そうは言ってもな、食べやすいスープやパン類はこの状況じゃ……」
夜間の見回りをした時に確認したが、パンを焼成できるような物も、鍋を掛けられるような物も、すぐに使えそうな窯はこの廃村にはなかった。
いやまあ、野営の時みたいに石をくみ上げればいいんだが、そこまでして朝一番に食べたいかって言うと……
「そうねえ、窯も修理したいのは山々なんだけど、修復に使えそうな材料がなくって困ってるのよ」
そう言っておばさんは子供に手を引かれていく。
確かに、この集落は緑に囲まれてはいるが、石材や粘土を持ってくるのは不向きに思えた。
だが、ここに壊れた窯があるという事は、この近くでも素材の採取は出来るはずだ。探してみてもいいかもしれない。
「んっ……ふう、よし、飯も食ったし、見回りを始めるか」
窯の話をして、ちょっとだけだが、パンやシチューの味が恋しくなった。そういうわけで俺は、周囲の安全を確保するとともに、粘土がどこかに無いかを探してこよう。
――
改めて見回って分かった事だが、村の北側には魔物の気配が全くない。
この方向はエレン達がいる領主館へ向かう道の為、魔物がいればかなり危険だ。なので、このことに関しては幸運だった。
問題としては、南部を中心として。大小いくつかの魔物の集落が隣接している。前の村のように、開拓者があらわれなければ問題ないのだが、動向は常に探っておくべきだろう。
そして、その集落の中に土巨人(クレイゴーレム)の集落を見つけた。使役する魔法使いもいる位に危険性の低い魔物だが、それの死骸は良質な粘土である。窯の建材としては申し分ない。
「……」
その集落で一体ほどクレイゴーレムを誘い出して、倒して持ち帰ろうと考えた時、ふとエレンとの会話を思い出す。
『ニールはこれからどうするつもりですか?』
『俺は……やることないし、当面はあの難民たちが定住できるように手伝うつもりだ』
本来なら、俺は土巨人の存在を教え、彼らに討伐させるのが筋だった。
俺がやってることは、親鳥が雛に餌を運ぶようなことで、将来的にはやらなくなることだ。さもなければ、俺もこの土地で骨をうずめることになる。
カインとは喧嘩別れしたが、俺は冒険者だ。一つの土地に定住するなんてのは、まだ早いと思う。
じゃあなんで俺が頼まれもしてないのにこんなことをしてるかって言うと、はっきりとしない。なんというか、俺を信じてここまでついて来てくれた人たちに、失望されたくない。そんな気持ちが大きかった。
「さて、やるか」
土巨人はそれこそ腐るほど倒してきた。今回もいつも通り、確実にこなしていこう。
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