第二章

閑話:カインの資質

「くそっ! あの親父、足下を見やがって……」


 カインはセーフハウスの談話室で悪態をつく。


「防具の修繕に金貨四十枚だと……? 新しく買った方がまだ安くつくぞ」


 掛け払いができなくなった今、現金を持ち運んでの取引しかできない為、持ち運ぶ財貨の量は膨れ上がるばかりだった。


「ま、しょうがないんじゃないの? 何にしても経った三年でしょ、すぐ終わるわよ」

「エルフ基準で話すなよ、サーシャ」


 カインは不機嫌そうに頭を掻くと、部屋の隅で杖を磨いていたモニカに歩み寄る。


「え、な、何……? モニカに用? カイン……」


「余裕だなぁモニカ? てめえのせいで俺たちはこんな苦労してるってのによ」


「ひっ……」


 宿代が未払いだった件の責任を、カインはモニカ一人に押し付けていた。


 本来ならば請求書に気付き、それ以上の事態になる前に防いだ功労者だったが、請求書が分かるのなら、最初から払うことができたはずだ。というのがカインの言い分だ。


「で、でも……パーティの帳簿を捨てられたら支払い状況なんて誰も――」


 カインは籠手の嵌められた左手で壁を殴る。それだけでモニカは小さく息を飲んで黙ってしまう。


「へぇ、言い訳するんだ? いいぜ、理由があるなら言ってみろよ」

「……」


 カインは左手を開閉しながら詰め寄る。次に言い訳をしたらその拳がモニカに振り下ろされる。そう威圧しているようだった。


「何でも……ない、です」

「ああ? なんだよ、俺が虐めてるみたいじゃねえか、悪いのは俺か? なぁ、どうなんだ……よっ!!」


 籠手で再び壁を殴ると、モニカは小さく声を上げ、頭を抱えてうずくまってしまう。小さくなったその体からは、小さな嗚咽が漏れていた。


「カイン、それくらいにしといたら? モニカ泣いてるし、貴方も疲れてるんでしょ、いつもなら金貨四十枚くらい気前よく払うじゃない」


「サーシャ……ああ、そうだな、もう寝るか」


 興奮した様子のカインを諫め、サーシャは彼を寝るように促す。カインは頭を振って、籠手を外しつつ寝室へ向かった。


「ひっく……怖いよ……助けて、ニール……」

「モニカ、貴方も災難ね」


 カインが見えなくなるのを確認して、サーシャはモニカに話しかける。その表情は、憐憫に満ちていた。


「サシャ姐さん! さっき凄い音しましたけど! なんかありまし……」


 外で鍛錬をしていたアンジェが、ドアを蹴破らん勢いで開けて入ってくる。彼女は泣きじゃくるモニカを見て、すぐに状況を察した。


「把握しました!」

「アンジェは物分かりが良くて助かるわねえ、カインもこれくらいまともだと良いんだけど」


 ため息交じりにサーシャは言い、アンジェはそれに続く形であっけらかんと言う。


「無理ですよ無理! 器じゃないっすわ!」


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