第6話 野営

 今日は月が明るく、周囲を薄明かりが照らしていた。


 村から出発して、俺たちは目的地まであと半分の位置まで来ている。


「……」


 馬車と急造のテントが並ぶ姿は、隊商の野営にも見えて、俺はそれを眠い目を擦って見ていた。


「見張りお疲れ様です。ニールさん」

「メイか」


 暖かな湯気を立ち昇らせるコップを持って、メイが様子を見にきた。


「明日も長い距離を移動するんだ。なるべく寝ておけ」

「ニールさんは?」

「俺は冒険者だ。寝ずの強行軍は慣れている」


 メイからコップを受け取って、飲み物を口に含む。強い苦みとほのかな甘みが、頭のもやを晴らしていく。


 ガロア神父を連れて来られたおかげで、神職の魔物除けスキルを拠点全体に張ることができた。


「……ちょっと眠れなくて」

「そうか」


 まあ、数日前魔物に村を占拠されて、それを奪還して、更に逃げる。そんな生活をすれば緊張とストレスで眠れなくなるだろう。俺はメイが隣に座るのを止めなかった。


「あのっ、ありがとうございます」

「いきなりなんだ?」


 感謝されるいわれはなかった。俺がここまでやってきたのは、単純に俺の良心が咎めた結果やっているだけだ。


「私を、私たちを見捨てなかった事です」

「もとはと言えば俺のせいだ。触媒もなく魔物が占拠する村に突撃した」


 せめて杖を持っていれば、クールタイムが縮んでいた。と、考えたいところだが、それを見越しての作戦を立てなかった俺が悪い。


「でも、私たちは感謝しています」

「……そうか」


 村を出るまでは、不平や不満を言う住人がかなりいたが、再襲撃によって俺の言ったことが真実だと、彼らは信じてくれたらしい。襲撃前に村長が頭を下げて回ったことを含めて、本当に運が良かったとしか言いようがない。


「そういえば、村を出るときに使った杖なんですが」

「すまないな、あんなにすぐ使うとは思わなかった」


――急造杖(インスタントブースター)


 魔法を学ぶうえで学ぶ、初歩的な魔道具の一つだ。


 乙女の体毛を中心に、ニガヨモギ、石灰岩、オーク材を組み合わせて作るこの触媒は、使用者の魔力を増幅する。


 製法が簡単なこれは、デメリットとして耐久性に問題があり、一度の使用で壊れてしまう脆いものだった。


「いえ、効果がかなりつよかったので驚きました。あれでよければまた作りますね」

「……髪を大事にしろ、ましてや嫁入り前ならなおさらだ」


 俺はそう言って、飲み物を口にふくんで夜空を見る。満月の周囲には輝く光点が星辰を作り上げていた。


「……あの、私たちの行き先ってどういう場所なんでしょう?」

「エルキ共和国コスタ領。こことそう変わらない気候の、穏やかな土地だ」


 俺は昔を思いだす。あそこでの生活は暖かい記憶として俺の中に息づいていた。


「きっと気にいるはずだ。お前たちにとっての新天地は」


 故郷に帰るはずだったが、想像以上に大所帯になってしまった。ああ、早くユナやエレンと会いたい。


 俺はそんな事を考えながら、眠気が来るまでという条件付きで、コスタの事をいくつか話してやることにした。

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