閑話:ニールの抜けた影響
「カイン、請求書が届いたわよ」
パーティの弓手、サーシャが一枚の紙をカインに差し出す。そこには「宿泊料金貨五枚」の文字があった。
「なんだそれ、一晩泊まったところで精々金貨一枚の安宿しか取ってないぞ、間違いだろ」
「そうよね、日付が一週間前になってるし」
サーシャはその請求書を放り投げる。
「サーシャさん、松脂買ってきたよ……あれ?」
魔法職のモニカが、松脂の入った袋を持って現れると、床に落ちた請求書を拾い上げる。
「何これ……未納分請求書?」
「ああ、捨てとけ、どうせ詐欺かなんかだ」
カインは手をひらひらと振って捨てるように促すが、モニカはその内容を詳しく読んでいく。
「……あ、あの、カイン」
「なんだよモニカ、めんどくせえ」
「前の町でチェックアウトする時、お金払った?」
「は? チェックアウト? なんだそれ、金もニールが前払いしてるんじゃないのか?」
モニカのいう前の町とは、ニールと別れた町だった。
「し、してないよ……! これ、治安委員会からの督促状だよ!」
「はぁっ!?」
カインは慌ててモニカから紙をひったくると、それに目を通す。書面には確かに治安委員会の文字と、宿泊費の金貨一枚と、未納延滞料の金貨四枚を最寄りの治安委員会詰め所に納付するようにと書かれていた。
「ふざけんなっ! お前らなんで一人も宿代払ってないんだよ!」
治安委員会を通して代金の未納を請求されると、ブラックリストへの登録が行われ、到着日から三年は掛け代金や手形取引ができなくなる。
冒険者は通常、松脂などの安いものは現金取引をするが、剣や防具などは買掛金で購入し、依頼をこなして掛け金を払うことが主流だ。つまり、カインたちは装備の新調にかなりの制限が課されることになる。
「誰も払ってないっていうか、いつもニールが払ってたしね、すぐに出て行っちゃったから引継ぎも大変だったし、まあ運が悪かったわね」
「帳簿関係もニールがつけてた奴、カインがいらないって言って、捨てちゃったから……モニカは全然しらなかった……」
「っ……、あの野郎……!」
追い出したのは自分だという事も忘れ、カインはニールへの呪詛を吐いた。
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