第2話 俺は自分のお人好しを呪った

「ギャアアアアアア!!!」

「……」


 森の中、突然襲ってきた鳥型の魔物を、火属性の魔法で焼き落とす。杖が無くても案外何とかなるもんだ。


 さて、俺は他にやる人がいなかったから支援をしていただけで、得意なことは別にある。それが攻撃魔法だ。


 消し炭になった魔物の隣をすり抜けながら、俺はステータスのスキルリストを眺めながら、のんびりと足を進める。



魔法マスタリーLv9

属性マスタリーLv8

支援マスタリーLv3

耐性貫通Lv5

コンセントレーションLv1



 各種マスタリーはどのレベルで魔法や支援を行えるかを表していて、耐性貫通はLv*10%の防御力・属性耐性を無視するスキル、コンセントレーションは発動までが遅くなる代わりに、威力が1+Lv倍になるスキルだ。


 ここまで言って。なんで攻撃職じゃないのかって話になるんだが。俺自身もそう思う。


 そもそもカインに加入を頼まれた時点では、俺は魔法職として加入したはずだった。しかし、加入するのは支援職以外のパーティメンバー。


 五人そろった時点で、俺はあの言葉を言ってしまった。


「このメンバーじゃキツいだろ、支援は得意じゃないけどやってやるよ」


 そこからだ、仕方なしで行っていた支援がいつの間にか本職になり、支援から雑務にまで役割の領分が増え、どんどんやることが増えていったのは。


「……っ、――っ!!」

「……ん?」


 森の奥から声が聞こえる。どうやら魔物か何かに誰かが襲われているらしい。


 関係ない……と言い切ってしまうのも寝覚めが悪いな、少なくとも様子を見ておくか。


 少しわき道をそれて。木立の間から顔を出してみると、さっきの鳥型と同じ魔物が、冒険者を襲っていた。見たところ駆け出しで、剣を持つ姿勢も腰が入っておらず、放っておいたら死にそうだった。


「竜炎(ドラゴンブレス)」


 俺は迷いなく、先程と同じように魔物を焼き払い。襲われていた冒険者の前に姿を現す。


「無事か?」

「……! っ、ありがとうございますっ!」


 冒険者は茫然としていたが、しばらくすると自分の状況を把握したのか慌てて立ち上がる。


「駆け出しならパーティを組め、今回は俺が居たからよかったが、居なかったら死んでいたぞ」


 その言葉を聞いて、冒険者は顔を俯かせる。


「私は冒険者じゃないんです。村からみんなが逃がしてくれて、それで――」

「ちょっと待て」


 俺はほぼ反射的に言葉を遮る。


 なんだ、ものすごく面倒な事に巻き込まれる予感がしたぞ。さっさとこの場を去ろう。


「ここからあっちの方に行けば大きな町がある。そこの傭兵ギルドに依頼しろ。俺はここからずっと遠い村に行く途中だ。ここであったのはただの偶然で、俺たちは会っていない。いいな?」


「え? で、でも……あなた、すごく強そうで」

「強そうだったら頼みごとをするのか?」


 力あるものにはそれ相応の責任がある。


 そんな言葉があるが、俺はそんなことは思わない。今まであのパーティで経験したことは、俺に強くそう思わせていた。


 なんでもかんでも「できるからやる」をやっていたら、相手は感謝を忘れてのしかかってくる。それはもう御免だった。


「それとも、相応の対価を払えるって言うのか、お嬢さん?」


 目の前にいる剣を持った少女に、俺は問いかける。


 すると彼女は顔を赤くし、驚きの表情を見せた。


 兜をかぶり、鎧を着こんでいても、骨盤と肩があまりにも華奢すぎる。ならず者ならともかく、冒険者ならすぐに気付くことだった。


「……」


 沈黙が訪れる。ちょっと野卑な質問だったか? でも、それくらいは言わなければ。


「……分かりました」


 そろそろ冗談だと種明かしをして、先を急ごうかと思った時、少女は服に手を掛けた。


「っ! 馬鹿野郎!」


 その手をとっさに掴んでしまった。ああ、またお人好しが出ちまった。心の中で冷静な自分がそう毒づく。


 傭兵・冒険者ギルドに依頼する時に必要になるのは、金か物だ。ただしそれは表向きの理由で、両方無い時は……今しようとしたことが報酬となる。


「わかるだろ! 冗談だって!」

「で、でも、村が守れるなら――」

「お前を犠牲にして助かりたいのか!? 村の人間は!」


 そんなわけがない。


 こいつを逃がしたのは、助けを呼びたいっていうのもあるだろう。だが、こいつだけでも無事に居て欲しいって気持ちもあったはずだ。それを無下にさせちゃいけない。俺はそう思った。


「……」


 少女は俯く。目尻に光るものが見えた。もう、どうすればいいのか分からない。そんな印象だった。


「はぁー……」


 溜息が出る。


 足止めか。まあこのまま見過ごすのも後味悪いしな……


「場所を教えろ」

「えっ……」


「ほっといたらマジでやりそうだから、俺がやってやるって言ってんだよ、タダで」

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