パーティリーダーから「田舎に帰れよ」と言われたのでホントに帰ってみた
奥州寛
第一部 ホントに帰ったらパーティが崩壊した
第一章
第1話 その時俺は遂にキレた
「お前、もう田舎に帰れよ」
パーティのリーダー……カインはため息交じりに声を漏らす。
失望したような、侮蔑の視線と共に言われたそれは、俺の心にある最後の一線を踏み越えた。
「え、いいの? じゃあ帰るわ」
そもそも、回復と支援を使える人がいないからと、仕方なく引き受けた役職だ、俺自身適性に合っているとはとても思えなかった。
ただでさえ適性の無い支援職をやらされ、野営の準備に炊事洗濯諸々……ミスなくすべてをこなせるとすれば、それは万能の神様くらいだろう。
「まてよ! お前の杖、売ってミスの補填に使わせてもらうからな!」
踵を返して出ていく途中、背中に投げかけられた言葉に、俺は手を振って「好きにしろ」と伝える。
ミスというのは何の事は無い。支援が一瞬遅れたせいで後衛の魔法職が手傷を負っただけだ。それも俺が回復魔法で治療して傷痕も残っていない。
部屋に戻り、身支度を整える。パーティを組まないのであれば、魔法用の触媒も必要なく、荷物は袋一つあれば十分な程度しかなかった。
着替え、二日分の食料、身だしなみを整えるいくつかの道具。そのくらいだ。
「ニール、さっきカインの部屋からすごい声が聞こえたけど……え?」
「ああモニカ、俺、実家に帰るから」
荷物を纏め終わったところで、モニカが部屋を訪れる。
つば広の三角帽にローブ姿、彼女が昼間のミスで怪我をした魔法職だった。
「えっ……な、なんで……?」
「なんでだろうな、なんかカインに田舎帰っていいって言われた」
「嘘、嘘でしょ? モニカの傷だってもう治ってるし、パーティの損害も全然……」
モニカはどこか野暮ったい女の子で、いつもパーティメンバーの後ろでおどおどしている。そんな性格だった。
そんな彼女を俺は気にかけて、隊列を乱さないようそれとなくサポートしていた。多分それが無くなるのが不安なんだろう。
「モニカ……いつかは一人で歩かなきゃいけないんだ。これからも達者でな」
「やだ、やだよ……モニカからカインに――」
「モニカ」
言いかけた言葉を遮るように、俺は彼女の名前を呼んだ。
「もう、決めたんだ。その勇気は別の事に使ってくれ」
「……」
ぽん、とモニカの肩を叩いて、俺は割り振られた部屋を出ていった。
「どこへ行くの?」
宿屋から出た時、声が掛かった。
周囲を見渡すと、樹上からサーシャが降りてきた。
「実家にね。ここはカインに追い出されたよ……『田舎に帰れ』だってさ、聞いてたろ?」
サーシャは弓使いだ。五感が鋭く、恐らくさっきの会話も聞いていただろう。
「またいつもの癇癪でしょ? ほっといたらいいじゃない」
「いや、正直これ以上我慢は出来ないわ」
エルフである彼女は、このパーティでも最年長だ。
俺のミスをカバーしてくれるのは彼女くらいで、俺も彼女の微妙にズレた価値観を、人間基準に修正したりと持ちつ持たれつの関係だった。
「そう……寂しくなるわね、モニカなんか泣くんじゃない?」
「さっき別れてきたよ、できれば支えてやってくれ」
正直、ここまでやらされたこのパーティにはほとんど未練は無いものの、唯一モニカだけが心残りだった。
「身勝手ね、人間の男ってみんなそう」
「そりゃあサーシャに男運が無いだけだ」
軽口を叩いて二人で笑うと、俺は顔を引き締めて右拳を突き出した。
「生きてたらまた会おう」
「それはこっちのセリフ。会いに行ったらしわくちゃのお爺ちゃんになってるとか嫌よ?」
「そん時は俺がボケてないことを祈ってくれ」
こつん、と俺とサーシャの拳が突き合わされ、俺は彼女と別れた。
町はずれの関所まで着いた。人の往来は多いが歩くのに苦労する程じゃない。
「ふう」
パーティにはもう一人いたが、さすがに全員見送りに来るとは思っていない。そもそもあいつは結構はちゃめちゃな性格で、そういう気づかいとは無縁な人間だ。
……まあ、なんにせよ、さっさと帰っちまおう。
「ニル兄! ちょっと待って!」
「ぐえっ!?」
一歩踏み出した瞬間、思いっきり襟を後ろから掴まれた。この遠慮とか気遣いのない引き留め方は、彼女しかいない。
「さっき聞いたけど、パーティ抜けるってホント!?」
「アンジェ……もうちょっと手心をだな……」
締まった襟をゆるめながら、俺は小さな盾役に向き直った。
「ちなみにアタシは絶対嫌だよ! なんならカインぶっ殺してでも撤回させてくる! そっちの方がみんな幸せだし!」
「殺すな、殺すな……」
細身の低身長、盾役には不向きすぎる体格ながら、アンジェはそれに見合わない大盾と鎚で、パーティのタンク役を担っていた。
先祖に魔物の血が混じっているからこその体格と怪力らしいが、詳しい事は俺も知らない。
「と言っても、リーダーはカインだろ、それは従わないとダメだ」
とにかく、アンジェはサーシャとは別方向で常識がない。
「えー……」
「えー、じゃない。死に分かれるわけじゃないし、また会う事もあるだろ。それまでにお前も一人前になっておけよ」
アンジェの頭を軽く撫でて、俺は町を出ていった。
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