初めての嘘

「珍しいな、ナザリェスが外出したいと言うなんて。家でずっと家事をしてるから、外にいるより家にいる方が好きなのかと思ってたよ。それで、何処に行くんだい?」


「祖父母の家に向かおうと思いまして。お二人はかなりお年を召られてるので、最近になって大怪我をしてしまったので……」


「なんと、それは大変だな。私は仕事があるから見舞いに行けないが、お二人の怪我が良くなる様に祈ってるよ」


夫のリストナが言った忙しいと言う言葉が、私にはどうにも信じられなかった。


没落寸前だった侯爵家の夫は、侯爵家との繋がりと私の家の財産と引き換えに立ち直る事が出来た。


そんな夫は普段、私のお父上から頂いた楽な仕事をして過ごしている。


お父様の会社の書類を監視し、誤りがあれば報告するだけの簡単な仕事を。


その書類自体も最終的な確認をするのは別の人だし、第一、休暇だって自由に出来る。


それなのに、夫は仕事が忙しいと言って祖父母のお見舞いに同行しようとしなかった。


……信じたくはないけれど、あの手紙に書いてあった通りに夫は浮気してるのかも。



「……本当に酷い手紙だねぇ、私の可愛い孫娘にこんな物を見せるなんて」


「全くだ。確かにお互いの本心ではない政略結婚だったのかもしれないが、夫婦仲は悪くなかったのだろう? それなのに浮気をするとはな」


祖父母の家でお二人に手紙を見せると、夫への怒りの言葉が帰って来た。


祖父母の言う通り、私と夫の仲は悪くない。


普段の生活だって順調だし、彼と身体を重ねた事だってある。


子供は未だに出来てないけど、それでも順調に夫婦として生活してきた。


それなのに……私の事を裏切って浮気をしてるなんて……。


「けど、不思議よねぇ。そこらの貴族なら浮気がばれても大した問題にはならないけど、あの人は名家の侯爵家。家の名で成り立ってる所が浮気するなんて」


「ふんっ、どうせ魔が差したとかだろう。このワシが同じ男としてガツンと言ってやれば、すぐに事情を話すだろうさ……痛っ!」


祖父は自分が腕を骨折している事を忘れたのか、拳を振り下ろす真似をして激痛に悶えている。


「ちょっと、落ち着きなさいよ。でないと何時まで経っても怪我が治らないわよ。全くもう……どうしましょうかねぇ。直接、夫に聞いてもはぐらかせると思うし」


「だったら夫の両親に聞けばいい。話してくれないと婚約を解消し、お前の家は再び没落の危機に会うと言ってな」

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