第53話 Xとの1on1

 勝負は5本先取。

 エリアは高低差や岩もある、射撃訓練場だ。200メートル以上相手と離れることは難しいが、ある程度なら距離も取れるし障害物が多いから近距離に持ち込むこともできる。そういうマップだ。


「よし、やろうか」


 俺が選んだのはスナイパーライフル2丁。近づかせる前に倒すという算段だ。

 連射力の高いスナイパーと一発の威力が高いスナイパー。二つを使えば近寄ることはできないだろう。

 Xはたぶん近距離戦に持ち込もうとするだろうが、そうはさせない。


「じゃあやるぞ」

『うん』


 100メートル離れたところからスタート。

 合図は俺の銃声だ。


(そのまま攻めてくるか、駆け引きをしてくるか……)


 小細工ナシなら、遮蔽物を活かして距離を詰めてくるはずだ。

 駆け引きなら、まずは様子見だと思うが……。


 パーン


 後者だ。相手もスナイパーを持っていたみたいだ。


「俺にスナイパーで勝てると思うなよ……っ‼」


 すぐさま反撃で撃ち返す。Xは頭だけしか出ていないポジションにいるが、いける。


「――ちっ、外したか」


 やはりエイムが本調子ではないのか、弾は遮蔽物である木に吸われていった。


 しかし次は絶対に当てる。

 深呼吸をして、一拍を置く。


 顔を出す位置を少し変えて、もう一度機会を待つ。

 そしてちょうどよく俺が覗いていたところにXの頭が見えた。


 もらった、と思った。しかし現実は違った。


「な――っ‼⁉」


 その瞬間に俺の頭は吹き飛ばされ、そのままキルされた。


『私の勝ちだね。まず一本』

「……ふんっ、まぐれでも当たるみたいだな」

『いまの君の弾は当たる気がしないからね。余裕をもって狙えたよ』

「言わせておけば……‼ 次覚えとけよ」


 人を不調だと思って余裕を見せるX。非常に腹立たしいことこの上ない。


「絶対にボコボコにしてやる」

『じゃあ次もやろう』


 もう一度だ、もう一度。

 俺は気持ちを切り替えて、もう一度スコープを覗いた。






「全部、負けた…………?」


 結果は、目も当てられないくらいの惨敗だった。

 いい試合になった瞬間が一度もない。


 俺は結局一発も当てられなかったし、手も足も出ないままに気が付けば負けていた。


「どうして、どうして……‼」


 2戦、3戦と負けていくうちにどんどん焦りが募って、最後の方はどうやっても当たる気がしなかった。

 そんな感覚になるのは初めてだった。


『話にならなかったね』


 Xがつまらなさそうに俺に言ってきた。

 そりゃつまらなかっただろう。あいつからしても、格下を一方的になぶったにすぎない。


「俺は……下手になっちまったのか?」


 調子の問題じゃない。圧倒的に実力が下がっているように感じた。

 いつも当てられるところが当てられない。いつももっと早く動けていたところで判断が鈍る。チームでやっていた時に感じていた不調が全て露骨に現れた。だからこそ、これは不調のせいだと、そんな楽観的な気持ちになることはできなかった。


 しかし、Xは俺の質問には首を縦に振らなかった。


『違うよ。君が負けた原因は他にあるよ』

「他に? じゃあなんだっていうんだ」

『簡単に言えば、自分を飾ろうとしてる』

「飾る?」


 Xの口から出た言葉は、あまり耳馴染みのない言葉だった。

 そして同時に意味不明。


「なんだよ、飾るって。FPSだから飾るもクソもないだろ」

『たとえばさっきまでやってた1on1。あれで君が負けたのは、私にで勝とうとしたから』

「……どういうことだ?」


 心当たりがある気がしたが、Xに尋ねる。


『そのまんまだよ。私と君はそんなに実力が離れてるわけじゃない。同じくらいの実力なの。でも君は私をボコボコにしたいって思った。5-1とか5-2とかスコアを意識してたでしょ』

「そ、そんなこと……」

『いや、絶対に思ってたね。勝ち方にこだわって、それで私に1本とられて焦った。もう1本とられて負けられなくなった。そうやって自分で自分の首を絞めてた』


 そうXに言い切られて、俺は否定できなかった。


『さっきRainyさんとやってた時も一緒。自分の手柄が欲しそうに見えた。君がキルを取らなくてもいい場面で無理にツッコんだり、そういうのが目立った。そして逆にRainyさんとか私がキルを取ると、焦ってるように見えた』

「――――っ‼」


 俺の胸の中を、Xはスラスラと言い当てていく。

 Xの言っていることにいちいち図星を突かれた。


 そしてXは、いつもは聞かないところまで深く尋ねてきた。


『なんかあったの? 君と、梨川御伽の間で』

「…………どうしてそう思うんだよ」

『女の勘。よく当たるんだよ、こういうの』


 さんざん言いたいことを言っておいて、最後はアホみたいなことを平気で言う。

 なんというか、さすがXという感じだが……。


「女に生まれただけで超能力がもらえるとか、チートじゃねえか」

『いいから聞かせて。ゆっくり聞くから』

「……おう」


 それからXは静かになって、俺の話を聞く準備を始めた。


 俺も話す決意を固めた。


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