第47話 互いに忙しく
最近、御伽と一緒にいる時間がめっきり減った。
御伽は以前に言ったドラマの撮影が本格的になっており、そのせいで家に帰ってこない日も多い。
一応食生活が気になるので家にいないときに食べたものはラインで教えてくれと言ってある。ただ送られてくるのはいつも写真で、しかもとんでもなく美味しそうなものばかりなのでぶっちゃけ飯テロみたいなものだが。
一番惹かれたのは仙台の牛タンだ。牛タンって冷めてても美味しいし最強だよな。
『そうそう、それでスタッフさんが紹介してくれたマッサージ屋さんがすごく良くってさあ~』
「売れっ子女優がじじくさいこと言ってるな」
『いやあ、走る演技が多くてさ』
またこうして一日を通して面白い出来事があると、電話をして話してくる。たまに演技の解釈が監督とずれて喧嘩になったりすることもあるそうだが、プロ同士となるとそういうこともあるだろう。俺もプロとはまだ呼べないがRainyとプレイの良し悪しについて判断がずれることがある。
むしろ意見をぶつけ合える関係というのは健全だと思う。
ただやっぱり言い合うというのは体力を使うものなので、電話をして俺をストレスのはけ口にしているということだ。
「まあ元気そうで何よりだ。あとは鉄分が少し不足しているみたいだから、レバーとかほうれん草とかそういうのは摂っておいたほうが良いぞ。貧血のもとになる」
『はーい。あ、じゃあマネさん来たから切るね~』
「ゆっくり休めよ。じゃあな」
電話を切って、俺もまたゲームの練習に戻る。
それにしても、こうして御伽と電話をするとモチベーションをもらえることが多いな。
身近で自分よりも頑張っている人がいて、しかもただの楽しい努力だけではなく苦しいことも経験している。そうなると俺も頑張らなきゃってなる。単純だけど。
『電話は終わった?』
「おう。X、今日はとことん付き合ってもらうぞ」
『こっちだってそのつもりだから』
やる気に満ち溢れた高校生組は、夜通し練習を重ねた。
最近、ロケ先で寂しさを感じるような時間が増えたと思う。
演技をしている最中とかはもちろんそんなことはないんだけど……スタッフさんとご飯を食べてるときとか、ホテルに一人でいる時とか、そういうときにふっと寂しさを感じる。
「変だなー」
こういう寂しさには覚えがあった。
まだ女優になりたての頃、一人暮らしを始めたばっかりの頃におんなじ気持ちになったことがある。
まああれはまだ高校生だったからだとか、周りが大人ばかりで自分だけっていうのもあったと思うけど。
しかし大人になってからこういう気持ちになってしまうのは、やっぱり最近増えた同居人のせいだろうか。
「罪な男だねえ」
それでもいきなり電話しても出てくれるから、まあ許してやるか。
いきなり家にやってきた隼くん。始めは一人増えただけだと思ってたけど、帰ってきたら人がいるっていうのがこんなにも安心するものだって忘れてた。
家に電気がついているだけでも嬉しいのに、バランスを考えた食事まで出来立てで出してくれる。
そういう生活が当たり前になっていて、いないときの悲しさというか寂しさが……というわけで定期的に飯テロをしているのだ。はっはっは。
まあいいさ。今度はロケ先に隼くんが来てくれる。せいぜいいじってやることにしよう。仕事中は関わることができなくて残念だけど、いっぱい美味しいものを食べさせてあげよう。
いつか隼くんは独り立ちをする。最近はゲームも遊びではなくなっているようで、ちょっとずつ子離れが見えてきた。
そういう寂しさもあるのかな。
「……あ、今日食べたカレーうどんの写真送り忘れてた!」
ぐふふふふふ、これでも食らえ!
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