第46話 プロゲーマーとしての第一歩

 プロゲーマーになる話、それを父親にすると意外にあっさりと認めてもらえることになった。


 どちらかといえば半ば諦めているようで、「好きにしなさい」とのことだった。

 しかし収入の話についてしたときは、もし稼げなかった場合は頼ってくれと言ってくれた。


 父も完全に賛成したわけではないのだろうが、何か心情の変化があったのかもしれない。


 だから、プロゲーマーになるという話をした時にむしろ反対の姿勢を見せたのは御伽の方だった。


「えー、20時から22時まで練習するの~。じゃあ一緒にご飯食べられないじゃん!」


 と言っても反対と呼べるほどでもない、ささやかな愚痴というくらいだったが。


「すまんな朝飯は作るから、夜飯は食べといてくれ。冷めてても良かったら2人分作るけど」

「冷めてるのやだ~。まっ、おとなしくウーバーでもしますか」

「おっけー、じゃあサラダだけでも作っとくから食べてくれな」

「了解しましたー!」


 びしっと敬礼をする御伽。ニカリと並びのいい白い歯を見せる。


 ちなみに相変わらずのかわいい笑顔にちょっとドキッとしたことは内緒である。


「そういえば御伽の方はどうだ? なんか朝ドラの主役に決まったってテレビでやってたけど」

「おお、お恥ずかしい限りですなあ。私め、とうとうN〇Kデビューでござる!」

「いや、今までにN〇Kに出たことないのかよ」

「ちなみに月10には3回も出たことある!」

「そんなセリフ、人生で一度でもいいから言ってみてえよ」


 俺からしたら月10という世界に出るということすら遠い遠い、何億光年の彼方にあるんだが。


「あ、そういえばそうそう。今度そのN〇Kのドラマで愛知県に行くことになったんだけど。前にうちに来たすみれって覚えてる?」

「ああ、あのショタコン女優か」

「そうそう。その彼女が一緒に来ない? って」

「一緒にって、俺が?」


 愛知県? 愛知県って、名古屋のあるとこ?


「って、俺が行ったらマズいだろ‼ お前との関係がバレたらどうするんだよ‼」

「大丈夫大丈夫。すみれの従弟いとこってことにするから」

「そんなんでいいのかよ‼」

「まあ仕事中は何も話せないけどね~。ぜひ愛知を楽しんでほしいってすみれが言ってた。あの子って実は愛知出身だからね」

「そうなのか」


 愛知県が生んだショタコンの女優の卵ということか。愛知の汚点やんけ。


「1月末だから、空けといてね~」

「おっす。ありがとうございます」


 なんにせよ旅行だ旅行。


 これくらいの歳になると旅行をしたくなるものです。城巡り、特産品の食べ歩き、壮大な自然。そういったものに興味を持つお年頃なのです。


 ……俺も歳をとってしまったなあ。


 そういう流れで、俺は御伽と旅行に行くことになった。






『こっちカバー頼む‼』

「はい!」

『そっちはFruitsさんに任せて、六原くんはこっちを撃ち返して』

「は、はい!」


 チーム練習はアイアンメンさん、Rainy、Xと俺の4人で行なっている。


 スクリムという定期的にプロ同士で行なわれる試合形式の練習に参加したり、ランクマッチに参加したりと日によって練習方法はまちまちだった。

 それでも確実に自分の実力が上がっている感覚があった。


 原因はRainyだ。彼女が求めているレベルは俺の実力よりもはるか上。それについていこうとすると、必然的にこちらの実力が伸ばされる。


 あと4人の試合ができるのも地味に大きい。いっしょにFPSをする仲間、Xしかいなかったからな……。


 そんなわけで、毎日2時間の練習ではあったけど確実に成長させてもらっている。


『いい感じね。でもまだまだ、撃ち合いの時に見える敵を撃つだけじゃダメよ。優先順位をつけて、チームの脅威になっている敵から狙っていくのが大事』

「はい!」

『じゃあお疲れ様』


 ちなみに2時間というのは俺とXが高校生であることに配慮した時間設定だ。

 Rainyとアイアンメンは昼にも何時間か練習をしているらしい。


「ふぅ……今日も疲れたな」

『そうね』


 そしてここからいつもの恒例行事。


『ねえ、もうちょっとだけ2人でやらない?』

「今日もか」


 いつも大人の2人が抜けた後にXがこうして居残り練習を提案してくるのだ。


 というのも、どうやら彼女も相当熱が入っているらしい。その理由もたぶん、今の4人パーティの中で自分の実力が一番劣っていると考えているからだろう。


 Xは俺みたいに大会で普段以上の実力が出るタイプじゃない。どちらかといえばRainyと同じで、普段から安定して高水準のプレイができるタイプだ。

 そしてその高水準がRainyとXではレベル差がある。


 大会でRainyといい試合をした俺、そしてRainy、またアイアンメンさんもああ見えてスコアに残らないところでチームを支えている――それらを総合して、自分が一番下手だと思い込んでいる。


 まあぶっちゃけ普段のプレイで一番下手なのは俺なんだけどな。


「ほんと、いつも言うけど。お前おれより断然活躍してるからな」

『うっさい。嫌みにしか聞こえないし』

「へいへい、お付き合いしますよ~っと」


 と了解の返事をしたところで、しかし別の用事があったことを思い出す。


「あ、わりい。今日は用事ある。すまん」

『用事?』

「御伽が遅くに帰ってくるっていうんで、ご飯作らなきゃいけないんだよ。悪いな」

『そんなことを君に頼んでるの、あの女は』

「いや、最近夜飯を作れなくなったんで、そのお詫びというか埋め合わせ」


 家に住まわせてもらってるのに、自分のことでやることができたからはいじゃあ自分勝手にやりますじゃあ最低だからな。最低限のことはやらんと。


『ずいぶんあの女にゴマをすってるのね』

「言い方言い方。明日はちゃんと付き合うから、許してくれ。な?」

『……わかった』


 渋々、というのが通話越しにも分かる返事だった。ほんとにゲーム好きなんだなと苦笑いしてしまう。


「じゃあまた明日。おやすみぃ~」

『おやすみ』


 ちなみに、電話を切った後ラインの方に『壁ジャンプのコツ』という動画がURLとともに送られてきた。

 こいつどんだけゲーム好きなんだ。

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