第44話 Fruitsmixの正体
イベント祭りだった冬休みも開け、俺はまたいつも通り学校に登校していた。
「おーす、久しぶりシュン」
「ハヤブサ、な。長谷川も結構久しぶり。冬休みは何してた?」
「まあ基本的には勉強と部活だな。でもクリスマスは千紗とデートしたぞ」
「のろけは興味ないからよそでやってくれ」
長谷川という軽薄な男は、冬休みを明けても相変わらず彼女自慢をしてくる。
俺への当てつけなのか、それともそれくらいしか話すことがないのか。へっ、寂しいやつだ。
「そういうシュンは大層なご活躍だったなあ。見てたぞ、大会」
「なんだよ見たのかよ」
「最後の一騎打ちとか超熱くなった。あれはマジでいいもん見させてもらったぜ」
「それはどうも」
長谷川は熱のこもった話し方をするが、距離の近しい友人に褒められるのはどうも気持ち悪い。というか居心地が悪い。
だから今すぐにでも話を変えたかった。
「そういえばその大会関連のことなんだけど、今日Rainyに会うことになったわ」
「へー、なにチームにでも誘われたん?」
「そうそう……ってよくわかるな。まだプロゲーマーになるかは迷ってるけど、話だけでも聞いてみようってなって」
「いいんじゃねえの?」
Rainyに誘われたという話は俺の中でかなり重要度の高い告白だったが、そっちの方は長谷川にはそこまで響かなかったらしい。
「しっかり考えたうえで決めたほうが良い。収入とかは俺たち高校生じゃ分からないところだろうしな」
ということだった。俺の思っていた以上に長谷川は真面目な話だと受け取ったようだ。
「まあそうだな。ありがと。ついでにFruitsmixのやつも来るみたいだから、直接文句を言ってやるわ。盗聴器のこととか」
しかし俺がXの名前を出した瞬間、長谷川の顔がほんの少しだけ変わったように見えた。
「……どうした? なんかあったか?」
「別になんでもねえけど……そっか、顔を見せる決意をしたのか」
「なんか言った?」
「特に何も」
何か知っていそうな顔の長谷川だったが、俺は気にすることなく話をつづけた。
「さて、ここが待ち合わせ場所か……」
学校が終わってその足で待ち合わせ場所に向かい、着いた時にはすっかり暗くなっていた。
マフラーで口元まで覆って、右手でカイロを握りしめる。
待ち合わせに呼ばれたのは
どうみても高校生で入っていいような場所ではないような、そんな気がする感じ。一見さんお断りが店全体からあふれ出ている感じだ。
「庶民っぽさが体全体で表現されてるよ、君」
「お、Xか?」
一人で緊張しているところに聞きなれた声を後ろからもらったので振り返る。
そこに立っていたのは黒いマフラーにマスクにサングラスに頭は黄色のニット帽……つまり顔全体がそれぞれの道具で隠されている女子が立っていた。
女子だと分かったのはその声と髪の長さで、それ以外は端的に言って不審者だ。
「X……Fruitsmixだよな」
「会うのは二回目ね」
「前に見たときはもっと物騒な格好だったけどな」
どうしても顔を見せたくないということらしい。
だが。
「どうみてもこのお店に入る服装じゃねえだろ、それ」
「あ、ちょ、いやっ」
ささやかな抵抗を見せるXからニット帽をむしり取り、その勢いでマスクをはぎ取った。
「ふうやれやれ、これでようやく目を見て話せるな……ってあれ?」
そして落ち着いて目の前に立つ女性の顔を見てみると、どこかで見たような顔だった。
まつ毛が長く黒髪も綺麗にボブに切り揃えられていて気品のある感じ。どこかで見たような……。
「あれ、どこで見たんだっけ……」
「…………目の前で思い出そうとするのって、失礼じゃない?」
「あ、ああすまん。…………ってため口で言ってるけど、一個上だっけ」
「別にため口でいいけど名前を思い出さなかったら撃ち殺す」
「いきなり命の危険なんだが」
いきなり彼女の名前を思い出す緊急性が跳ね上がったため、頭をフル回転させる。
「えっと……たしか、
「せいかーい」
そういえばそうだ、長谷川と話したことがある。たしかうちの高校で有名人ということだったはず。
まあ有名かどうかはよく知らないが、たしかに噂になるほどの美少女であることは間違いない。
ただ当の本人である本所先輩は俺が正解したことがつまらなかったらしく、口を尖らせている。俺のことを殺したかったとかじゃないと願いたい。
「なんかリアクションが薄くて面白くない」
「そんなこと言われても……」
これ以上話を続けても愚痴を言われる空気を悟った俺は、話を変える。
「そういえば、本所先輩の家ってたぶんお金持ちですよね? いきなりパソコンを送ってきたりして……こういう高そうな店とかよく来るんですか?」
「まあたまにパパに連れてきてもらうことはあるけど……基本的には質素な生活してるからね。ゲーム以外はあんまりお金使うことはないかな」
「へー意外」
「殺すよ?」
「すんませんでした」
それにしても顔を合わせてみると、印象が少し変わってくるもんだな。思った以上に怖い人でした。ハイ。
「あら、2人とも早いわね」
そしてそこにRainyも合流をし、それから俺たちは料理亭に入っていった。
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