第43話 御伽の年収
タワーマンションの43階。そこから見える景色はいつみても絶景だった。
よく函館の夜景が100万ドルと言われるが、俺のような一般人からしたら函館も東京も違いが分からない。
もうここに来て2か月以上は経つ。それでもこの夜景が自分に馴染まないのは、自分が飛び級をしてこんな高いところに住んでいるからに違いない。
「お風呂空いたよ~、隼くん」
俺はこの無防備にタオル一枚でやってくる梨川御伽に住まわせてもらっているだけだ。
「なあなあ、つかぬ事を聞くけど……御伽って年にどれくらい稼いでんの?」
「おっと、高校生がずいぶんとお下品なことを聞きますなあ」
「いや別に言わなくてもいいんだが……」
億は稼いでいるだろうけど実際にどれくらいのものなのか、俺は少し興味を持って聞いてみた。
「どうだろうね~。あんまりお金とか使わないからなあ……」
「使いみちとかってあんの?」
「服買ったり、ご飯食べたりとか? あとはお母さんに仕送りというか」
前に御伽は母親一人に育てられたと言っていた。その生活を楽にしたいという気持ちでお金を振り込んでいるだろうことは、簡単に想像がつく。
「でもそんなんじゃすぐにお金が余っちまうだろ?」
「別に余ったっていいじゃーん。それよりもなに、もしかして……何か欲しいものでもあるの?」
「もうすでにいっぱいもらってるからな……むしろ何かお返しをしたいくらいだ。まあお金が余ってる人間に俺から喜ぶようなものは渡せないがな……」
「気持ちだけでじゅーぶんだよ。そういうのはね、お金で無理に解決しようとしなくていいの」
億万長者は余裕があるなあ……としみじみ思った。それも嫌みな余裕ではない。魅力的な余裕だ。
前にツイッターで女の人が男からもらったプレゼントを「安い」と切り捨てているのがバズったこともあったが、少なくとも御伽はそういうのとは無縁なんだろうなと思う。
「ではでは」
俺が変なことに想像を膨らませていると、御伽はパジャマに首を通しながら言ってきた。
「将来自分がどうなるかでも想像していたのかなあ。ほら、プロゲーマーになったらこんなとこには住めないなあとか思ったでしょ」
「まあそれもある」
「でもいいんだよ。タワマンだって不便なこともちょっとあるし、別にこんなのステータスにもならない。お金を稼ぐよりも幸せになる方法はいっぱいある。好きなことをして生きていくとかね」
「そういうもんかね」
御伽はお金を持っているからそういうことが言えるんだろ……とは思わなかった。彼女が好きなものは演技で、それにたまたまお金が入ってきているだけ。たぶんこいつはお金をもらえなくてもどっかでのんびり演技をしていただろう。
「まあもしお金に困ったら言いたまえ‼ 隼くんがちゃんとお願いしたら、少しくらいなら貸してやろう!」
「はは、それはありがたい話だな」
「お金ももちろん大事だけど、後悔のないように生きなくちゃね」
御伽は「それじゃおやす~み~」とランプの魔人のように自分の部屋に消えていった。
基本的にのんびり屋の彼女だが、話はいつも参考になることばかりだった。
別に彼女は俺にプロゲーマーになってほしいわけではないだろう。他に好きなことができたからそっちの道に進む、って言ったら応援してくれるはずだ。
彼女は俺に、色々な人に後悔をしてほしくないんだと思う。お金がないから、人に何か言われるから、そういった理由で自分の好きな道を手放してほしくないのだ。
御伽の母が御伽にそうしたように、好きな道に行く人を応援したいのだ。
「俺も、もっと自分と向き合わないとな」
まずはそのためにRainyに話を聞く。
それが自分と向き合う第一歩だと、そう思った。
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