第42話 勧誘
「Rainyのチームに……俺が?」
Rainyの所属しているチームはLink Lost、通称LLと呼ばれるプロチームで、この前開かれた大会の主催であるFAとともに国内でトップの知名度を誇るチームだ。
スポンサーに有名なキーボードやマウスの会社であったりパソコンの会社などがある、最高レベルのチームだ。
実績としても申し分なく、特にRainyが3年前に加入してからは世界大会へ出場する回数も日本一だ。
「そんなところに、まさか誘われる日が来るとは……」
正直、嬉しいという気持ちが強かった。自分の実力が認められたような気がして、自分に才能があると期待されている気がして。
だが同時に迷いもある。だからこそ、俺はRainyに会うことを決めた。
「X、ちょっと話があるんだが」
「なに」
「俺さ実は…………Rainyのチームに誘われた」
「ふーん」
「――――え、反応薄くね?」
一世一代の告白のように言ったつもりだったが、Xの反応は思ったより普通のものだった。
「まあ、私にも似たような話が来てたし」
「えっっっつつつつ⁉ そうなのか?」
「まあ私はの方は体験入部みたいなかんじだけどね」
「へ、へえ……」
思わず動揺してしまった。自分だけだと勝手に思い込んでたから、Xも誘われていたと知ってちょっとプレミアム感が減ったというか。
「なに? もしかして、自分だけ才能が認められてたと思った? それで嬉しくなっちゃったんだ? だから今、私にも同じような話が来てるってきてがっかりしちゃった?」
「そ、そんなわけねーだろ。お、お前にも同じような話が来てると、お、思ってだな」
「その割には、『実はさ……』とか言っちゃってたけどね」
「やめろぉぉぉおおおお‼」
などという話があったのち。
「それで、お前は入るのか?」
「うん。もともとプロゲーマーになりたかったからね。あんな強いチームに入れるなら私としても願ったりかなったりだよ」
「まあそうだよなあ」
プロゲーマーになろうかどうかで迷っている俺でさえ揺れているんだ。Xとしては断る理由はないだろう。
「なに、君は迷ってるの?」
そしてXは俺の気持ちも察してくる。
「まあ、恥ずかしいけどぶっちゃけそうだな。だから、Rainyに直接会って話を聞こうと思ってる」
「そういう目的で彼女に会いたいんだ」
「ひとを唐突に出会い厨みたいに呼ぶのやめてくれるかな⁉」
そもそも顔も見たことない相手にどうして会いたいって思うんだよ。怖えだろ普通。
「彼女の写真なら調べれば出てくるでしょ。世界大会はオフラインなんだし、ほら」
「って、マジの美人じゃん⁉ え、Rainyってこんな顔してんの?」
「あーあ、これだから男は。女をすぐに顔で判断して喜んじゃって。バカみたいね」
「違うわ! イメージとのギャップがあったから驚いただけだわ!」
鼻立ちがスッキリしていていかにも美人っていうオーラを出しているが、そもそもうちには目が飛び出るほどの美人がいるしな。そうそう顔だけで驚くわけでもない。
ただプロゲーマーでありながら美人っていうところに驚いただけだ。
「まあ……いいんじゃない。会って話せば?」
「なんだよ、やけにあっさり態度を変えて」
「別にもとから反対してないし。それに…………将来のことをちゃんと考えるのはいいことだと思うから」
「……そっか」
XもXなりに考えてくれているらしい。もちろん彼女としては俺にもプロゲーマーになってほしいのかもしれないが、それは俺が決めることだと常々言っている。
そんな彼女だからこそ、俺も素直に聞き入れることができた。
「あ、でも条件が1つ」
「なんだ?」
「会うって言うなら――――私も同席する。それが条件」
「…………まじ?」
同席するってことは、つまり俺とXも顔を合わせるということで。
「それって……」
「なに、どうしたの? もしかして私と直接会うってなって、緊張してる?」
「べべべべべべべべべ別に緊張なんかしてないし? してないですけど?」
「これだから童貞は」
「どどどど童貞って決まったわけじゃないだろ⁉」
ていうか普通、今まで電話でしか会ったことなかった人間と会うのって緊張するもんだろ⁉ 童貞呼ばわりはどう考えてもおかしい。 by童貞。
「つーか、お前こそ俺と会いたくなさそうにしてたくせに。なんだよ、いきなり心情の変化でもあったのか?」
「いえ私もRainyに会ってみたかっただけよ。決して、決して焦りとか危機感からだとかそういうんじゃないから」
「焦り? 危機感? 何の話だよ」
「…………べつに、君には関係ない……」
「そうかよ」
というわけで最後にXが変なことを言っていたが、Rainyと2人で会うことが決まり先方にもそのように連絡した。
そして年明けの5日に直接会うことが決まった。
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