第41話 結果発表

『――優勝したチーム『R』のおお二人にお越しいただきました! Rainy選手、アイアンメン選手、優勝おめでとうございます!――』


 俺は公式の大会配信を見ながら、自分が負けたことを改めて実感していた。


「すまね、負けちまった」

『いえ……君であれなら私は歯も立たなかったでしょうね』


 Xが励ましの言葉をくれる。しかしその言葉は決して「しょうがない」というニュアンスは含まれていなかった。

 あるのは、ただ負けて悔しいという気持ちだ。あの時こうしておけば、あのときこうだったら、という自責の念に駆られているように見えた。


 そして負ける直接的な原因になった俺も同じ。どれほどXの言葉に気持ちがこもっていようとそれは気休めにもならなかった。

 実力の差で負けた。それがなによりも辛いことだった。


 コメント欄ではちょうど配信遅延の影響でいま最後の戦いの場面に入っている。コメント欄で盛り上がっているのを見て、胸がきゅっと締まる思いだった。


「あーあ。俺、弱かったなあ」


 なんとなく勝てると思っていた。最初に負けて0ポイントから始まったときも最後の試合の前も、根拠のない自信みたいなのがあって「どうせ勝つだろう」という楽観的な気持ちでいた。


 それがこれ。見事に鼻をへし折られた。


「どこでミスったんだろうな」

『最初で負けたのが痛かった。結局あの差が最後の最後まで詰まらなかった』

「でもそれで行ったら漁夫の判断とかどうだったんだろうってなるよな。6試合目とか、まあ他にもたくさんあるよなあ」

『実力不足だったね。いろいろ負けた原因はあるけど、結局はスキルの差だった』

「同感」


 本当はもっと負けた理由について突き詰めるべきなんだろうけど、俺たちはその方法すら知らなかった。そりゃ負けるな、って感じだな。


 ただそれでも――逆に言えばまだまだ成長できるってことでもある。


「まあでも次に活かせばいい。負けたとしても、得るものはたくさんあったし、自分の力がまだ伸ばせるってことにも気が付くことができた……ってどうした?」

『いや……なんでもない。そうだね。次、頑張ろうっ』

「急になんだよ……女子みたいな声出して」

『女子ですけどなにか?』


 負けたことへの悔しさは消えないが、それでもトータルで見ればこの大会は自分にとってプラスだったことは間違いない。

 高校生のうちでプロゲーマーのようなことを経験することができたのは、将来を考えるうえで貴重なことだった。


「隼くーん、終わった感じ?」


 とそこでタイミングよく御伽おとぎが部屋に入ってきた………………っておい!


「まだ配信中なんだが⁉」

「えー大丈夫でしょ~」

「と、とりあえず配信切るぞ‼」


 いきなりだったのに相手の名前を呼ばなかった自分を褒めてやりたい。突然部屋に入ってきた相手があの女優の梨川御伽だとバレたら、マジでとんでもないことになる。


『あの女が入ってきたのね』

「そしてお前はどうしてそこまで御伽に対して好戦的なんだよ」

『別にそんなことないけど』

「明らかにとげとげしてるけどな……」


 それから配信を無事に切ったあと、3人でしばらく話し込んだ。


 負けて2位になってしまったこと、初めての大会で緊張したことなど話すことはたくさんあったが、その間は御伽は何も言わずにただ頷いているだけだった。


「それで、俺が注意を引こうとスモークを投げたんだけど……」

『あー、あー、聞こえますか?』


 そしてそのまま話を続けようとしたところで、急に俺とXの話していたディスコードの通話に知らないアカウントが入ってきた。


『どうも~公式の武蔵です~。siX_sense選手、お話のところ失礼いたします~。あ、Fruitsmix選手もいるんですね。こんにちは~!』

「公式……? あれ、まだ何かあったっけ……」


 ひとまず御伽に目配せをしてうっかり喋ってしまわないように注意する。


『あ、同じく公式のヒーローです。お二人ともお疲れ様です。グッドゲームでした』

「ありがとうございます」

『それで、何かあったんですか?』


 俺たちが初対面の挨拶をしているところで、Xが訪ねてきた理由を尋ねる。


 武蔵さんは質問を受けて『はい!』と一旦話を切ったのち、公式が訪れてきた理由を説明した。


『実はsiX_sense選手はこの大会のキル数が一番多かったので『キルリーダー』、また最後のRainy選手との一騎打ちが『最も熱かった瞬間』に選ばれました! そのため、その報告とお気持ちをお聞かせ願えたらと思いまして』

「…………え?」


 聞いた時の最初の反応は「そんな賞なんてあったっけ?」だった。そしてそれから「え、自分が?」ってなった。


 そんな俺を置いてけぼりに、ヒーローさんが続ける。


『最後の試合は25キルと大暴れでしたからね‼ しかも最後のRainy選手との戦いは世界大会のフィナーレだと言われてもおかしくないほど、お互いの力を存分に出し切ったすごい戦いでした』

「えと、あ、ありがとうございます……」


 やべえ、陰キャみたいなおどおどした対応になっちまった。は、恥ずかしい。


 Xの野郎も通話越しにくすくす笑ってる声が聞こえるし、隣の御伽もあったかい目で見てきてなんかウザい。しかも御伽の場合は絶対にこういった陰キャ感は出さないだろうから、俺から言い返すことができないのがもっと腹立つ。


『それでは今大会の感想の方をお聞きしましょう。siX_sense選手、今大会はいかがでしたか?』

「そうですね……。非常にいい経験をさせていただいて…………参加させてもらって本当にありがたかったです」

『今回は初配信ということで緊張もされていたかとは思いますが。どうでしょうか、プロゲーマーになったときのことも想像できたんじゃないですか?』

「うーん、そうです……ね」


 そう言われて、そうか、と気が付いた。こういった大会に出るような人間は当然プロゲーマーを目指していると向こうも思っているはずだ。

 現にXはプロゲーマーとしての経験を積むために、今回の大会に俺を誘ってきた。


 俺は正直なところまだプロゲーマーになるかどうかは決めきれていないが……。


「はい。コメントに勇気づけられるっていう感覚は初めてでしたし、大勢の人に見られながらゲームをするっていうのもとても新鮮でした。……すごく楽しかったです」

『はい、ありがとうございました! これからも頑張ってくださいね‼』


 こうして大会は終わり、俺には平和な日常が戻ってきた。



 かと思われた矢先、こんなメールが俺のところに届いたのだった。


『うちのチームに入って一緒にプレイしてみませんか? 君なら絶対に活躍できるよ』


 相手は、さっきまで死闘を繰り広げていたRainyからだった。

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