第40話 決勝――第八試合③
『ひ、ヒーローさん……。今のは……。私にはsiX_sense選手が味方の選手を撃ってしまい、絶体絶命に陥ったようにしか見えなかったですが』
『実際に起きたこととしては、合ってますね……。味方を撃ち抜いてすぐさまFruitsmix選手は確殺を入れられてしまった。しかしsiX_sense選手はその味方の死体からスナイパーライフルを瞬時に入手して、アイアンメン選手の頭を一発で捉えたということですね』
『えぇ……そんなことが可能なんでしょうか?』
『まあ普通に考えたらまぐれだと思いますが……断言します、これは最初から意図して行われたプレイです。彼が投げたスモークグレネードは味方を蘇生するものではなく、そのあと安全に死体を漁るためのプレイですね』
大会の公式配信のコメント欄が荒れている。《さすがにたまたまでしょ》という声もあれば、《鳥肌立ったわ……》と魅了されている声もある。
『でも、なぜそこまでする必要があったんですか? Fruitsmix選手もスナイパーの腕前はこの大会でもトップクラスだと思いますし、わざわざ味方を倒してsiX_sense選手が使わなくても……と思ってしまいますが』
『理由は2つです』
『2つ』
『1つ目は油断させるためでしょう。優勝を決める最後の戦いで、チーム『R』は人数有利な状況ができた。チーム『カップル』の仲間割れのような結果で。その安心は、一瞬であったとしても命取りになるはずです』
『たしかに、アイアンメン選手は少し棒立ちのような状況になってしまっていましたね。実際に1対1の状況に持ち込めているので、結果的にも油断を誘えていたと思います』
『それで、2つ目の理由というのは?』
『それはもっとシンプルなものです』
『シンプル。と言いますと……?』
『簡単ですよ――』
ヒーローは大会最大の山場を見せているこの瞬間に、最後一言だけ添えた。
『Rainy選手に1対1で勝てる相手は、彼しかいないということです』
『私を殺したことは生涯根に持つけど……頑張って』
「あとでいくらでも文句は聞くから許してくれ」
Xが不満げな声を漏らしていたが、しかし勝負は託したと言わんばかりにその後すぐ通話をミュートにした。
これで正真正銘、1対1だ。
まずは牽制がてら1発撃つ。しかしすぐさま撃ち返され、しかも相手の弾は俺に命中した。
「つ、つええ……」
俺も顔を出したのは一瞬のはずだったのに、見事に当てられている。正確すぎるエイム力だ。
これが日本一位、Rainyか。
「これは……燃えるな」
目の前に日本一位が立ってる。堂々と、こちらの力を真正面から叩き潰そうとしている。
楽しくてしょうがないな。いや楽しんでる場合じゃないんだけどな。
上級者、それも相手がこれくらいの手合いとなると、独特の間合いが存在する。
普通の人間が顔を出してくるタイミングで息を潜められたり、逆にHPがもうあと少ししかない状態で体を出してきたり。普通のプレイヤーにない発想で普通のプレイヤーを狩るように組み立てられている。
FPSは心理戦だ。体を出すのか、出さないのか。スナイパーで撃つのか、アサルトライフルで撃つのか。
俺はスモークグレネードを右斜め前に投げる。そしてそのまま俺はスモークとは逆方向の木に向かおうとするが……。
「反応はやっ⁉ いや、読まれてたのか……」
スモークでそっちに気を引く作戦だったが、あっけなく看破されている。
つ、つええよ……。
結局移動できず、俺は丸太にくぎ付けにされる。
「くっそ、時間もなくなってきやがった……」
安置の収縮が始まるまであと10秒。このままじゃまずい。
何か手はないのか。搦め手はたくさん思いつくが、どれもRainyを敗れるビジョンが見えない。
……いや、分かってるんだ。ここから先は本当に実力の勝負だと。
「ふぅぅぅううううう」
ヒリついた空気を思いっきり肺に叩き込む。脳にアホほど酸素を送り込んでやる。
「さあ、いくか」
そこからは無我夢中だった。
ひたすら相手の頭を目がけて撃ちまくった。
そして――――俺は勝負に負けた。
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