第38話 決勝――第八試合①

「最後の一試合、か」

『……そうだね』


 4時間にわたる大会も残すところ一試合となり、今は最終戦が始まるまでの最後の待機時間だ。


 そして俺たちの間にはどことなく重い空気が流れていた。

 理由はいたってシンプル。


『一位のチーム『R』まで20ポイント差……。ひっくり返すには絶望的な数字だよ……ね』


 Xが諦めたような口ぶりで、現状の点数差を口にした。


 後半戦は一進一退の攻防で、むしろ順調にポイントを伸ばせていたと言ってもいい。毎試合20近くはポイントを増やしていたので、一位になっていてもおかしくない数字までポイントを積むことができた。


 だが一方で、チーム『R』の勢いを止めることができていないという事実もそこにはあった。

 同じようにポイントを伸ばされてしまっているので、結果として差を詰めることができていない。


 それを考慮すると、20ポイント差を埋めるというのはさすがに厳しいというのが俺もXも感じていることだった。


「少なくともチームで20キル、いや、あいつらも平均して10キルは取ってくることを置考えると30キルはしないといけない。そのうえで相手をいかに早く脱ラこうさせられるか、だな」

『最初にミスしてあっちがやられたりしたら可能性はあると思うけど……でも現実的じゃないね』

「ああ。30キルして1位。それであとはあいつらの成績次第。まあ結局は運だな」


 これだけ差がついてしまったのは、ひとえに実力の差だ。俺たちとやつらでは実力に差があった。

 だからこそ、実力差を埋めるには運に頼るしかない、というのが最終的な結論になるのだとそう思ったのだが。


『ねえ、それなんだけど……』


 しかしXが考えていたのは全く違う選択だった。


『どうせ最後の試合なんだし――どうせだったら自分たちの手で優勝を掴んでみない?』






 FPSにはキルムーブと呼ばれる戦略がある。

 どういう戦略なのかと言うと、簡単にいえば「順位よりもキル数を稼ぐことを重要視しましょう」っていう戦略。とにかくキルを稼ぎまくれば、たくさんポイントもらえるしあわよくば順位も上がってラッキーっていう作戦だ。お花畑みたいな作戦である。


 だがこれは大会ではほとんど見られない、というか成績の悪いチームが最後の大逆転を狙って博打ばくちのように行われることは多くあるが、勝ってるプレイヤーや確実に成績を伸ばしたいチームはまず選ばない。


 なぜなら、キルムーブをするためにはいいポジションを捨てて戦わなければならなかったりするし、敵がたくさん寄ってくることを知ったうえで戦場に突っ走らないといけないし、とにかく負ける確率を自分で高くしてしまうからだ。物資不足で負けたり、漁夫の対応が間に合わなくて負けたりと、実力以外のところで負けることが多いこのムーブは、普通はするメリットがない。


 普通は。


「…………死ぬ。死ぬ。もう10回は死にかけた」

『あれ、頑張ってないんじゃないの? こっちはもう100回は死にかけたけど』

「それはお前の動きが悪いだけですぅー‼ おい、次の敵が来たぞ‼」


 これはマジでヤバイ。もうかれこれ10分くらい、ずっと銃を構えて弾を撃ち続けている気がする。適当に漁ってはすぐ次、また倒した敵の物資を漁ってそこにやって来た敵を捌いてって感じ。


 終わらない、止まらない、やめられない。いや、やめたい。

 いくら一位を目指すからと言って、このムーブはまじで効率が悪すぎる。


「頭当ててる、そいつのHPミリ!」

『やったやった。そっち後ろいってる』

「おっけーこっちも片付けた……ってうおーこれ別のパーティーやんけぇぇぇぇええ‼」

『逃げずに戦ってくれるかな♡』

「むり、しぬ、しb、しb、たskt」


 戦場の真ん中で、助けを叫ぶ。神様、俺を助けて下さい。


「っっっっだあぁああああもお、やってやらぁぁぁぁぁあああ‼」

『その調子、ほら、また出てきたよ』


 それでも頑張るのは、自分たちの手で優勝を掴みたいからだ。

 相手が負けることを願うよりも、よほど勝った時の喜びが大きいだろうさ。


 というわけで、チーム『カップル』。泥だらけで勝ちを目指しております。


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