第36話 決勝――第三試合③

「なっ――‼」


 俺が狙っていた敵が、一発で倒れた。

 ヘッドショットだ。


「畜生――っ!」


 弾丸は俺のいる岩とは逆側にある小屋から撃たれていた。


 あそこからあの丘までの距離はおよそ600メートル。高低差もある中で、あれを一撃で決めるのかよ……。

 キルログには倒した敵に『Rainy』と出ている。


「ふざけやがって、やっぱあいつスナイパーも強いじゃねえか‼」

『獲物を取られたの? あの女に?』

「……ああ」


 しかも俺もあと0,1秒あれば倒せた相手だ。無茶苦茶に悔しい。


『確死はいれときなよ。人を減らす方が優先だから』

「わかってる!」


 Rainyのキルになることを承知で、俺はあいつがノックダウンした敵に確殺を入れた。なんと屈辱的な話だろうか。


 俺は慌てて標的を丘の敵から小屋にいるチーム『R』に変える。


 見えた敵を一発撃ちぬいたが、胴体だ。倒すには至っていない。


『こら、丘の敵を倒して』

「でもあいつらのほうが脅威だろっ」

『丘に敵がいなくなればこっちは屋外にいる分だけ広く場所を取ることができる。戦いを優位に進めるためにはあっちを倒さないと』

「わかってるよ‼」


 全くもってその通りなので、仕方なくもう一度丘の敵を狙う。


 相手も小屋に対する射線を気にしていたようで、こちらからは丸見え。

 その場で立ち往生している敵の頭を、一発で刈り取った。


『おっけー。それでいいよ』

「ちっ」


 これで残り俺たちを含めて4部隊。部隊を減らすことには成功したが、しかし俺の中ではRainyに力を見せつけられた気がしてどうにもスッキリしなかった。


 まあそんなことを言っている場合でもないのだが。


「最終安置は……小屋の方か」

『これは運が悪いね……』


 安置はRainyたちがいる2つ並んだ小屋の方だ。そうなると必然的に俺らともう1チームはそちらまで移動しなければならなくなる。

 それに相手が普通のチームであれば少しの不利という感じだが、相手は凄腕のスナイパーだ。移動中にやられる可能性が高い。


 敵の居場所はすでに全部割れている。俺らから見て右側、先ほど敵を倒した丘のさらに奥に1チーム。そしてそこから遠く離れて俺らのチーム。そして真正面に並んだ2つの小屋にRainyたちともう1チームがいる。あの小屋は密接していながら高い塀で囲まれているため、意外に戦闘が起きにくいのだ。


「だがやるしかないな」

『じゃあ先にある程度距離を稼ごう』

「いや、待て」


 Xが体を出そうとしたところで、俺は慌てて引き止める。すると、体を出したその一瞬の間にXに向かって弾丸が飛んできていた。


『ひょわー、これはダメだね』

「完全に狙ってきてる」


 おそらくRainyのチームだ。銃声とやつらがいた小屋の方角が一致している。


 どう考えても丘の奥にいた敵や小屋にいる敵を牽制すべきだろうに……。これはどう見ても俺たちが標的にされてるな。


 さて、どうしたもんか。


「X、お前いま何の武器持ってる?」

『DMRとAKだね』


 スナイパーライフルとアサルトライフルか……。俺と同じ装備だな。

 こうなると正面突破はきつそうだ。


 ……なら。


「お前ひとりで勝ってもらうことになるかもしれないな」

『…………本気で言ってる?』

「こればかりは仕方ない。近距離ならお前の方が上手いし、それにスナイパーを持つなら俺の方が合ってる」

『――おっけー』


 少し逡巡を見せたのち、Xは賛成した。


 ここで小屋にたどり着くためには、どうしてもひとりは迎撃する敵を撃っていないといけない。しかもただの乱射では気にせず狙われ続けてしまうだろうから、ある程度敵に当てておく必要がある。


 そうなると囮役は俺になるというわけだ。


「よし、じゃあ今すぐに行け。ちょっと時間が経てば丘の向こうも移動を始めるはずだ」

『私を殺さないように頑張ってくれ』

「任せとけ」


 Xが移動を開始する。と同時に案の定あいつらもアサルトライフルを撃ち込んできている。


 そしてXに注意が向いたその瞬間に俺は撃っていた人間の頭を撃ち抜く。


「ちっ、レベル4かよ‼」


 だがノックダウンには至らない。相手も最高レベルのヘルメットを身に着けていたらしい。


 そして倒しきれないとなるとすぐに応援が来る。

 顔を出していなかったもう一人が2階の窓枠から顔を出してきた。


「やべ」


 一瞬の隙に胴体に一発もらう。エイム力がえげつないんだが……。


 だが回復している余裕がない。こっちの銃撃に合わせて、もう片方の小屋にいた敵にもXが移動していることがバレる。


『こっちもお願い』

「相変わらず人使いが荒いんだよっ‼」


 そちらにも胴体に一発ぶち込む。倒し損ねはしたが、移動しながらXが撃っていたアサルトライフルでそのままノックダウンまでもっていった。


 そしてその銃撃戦でさらに体力が削れ、もはや数ミリくらいしかHPゲージが残っていない俺が狙ったのは――Rainyのチームだ。


 最後にヘッドショットを一発与えるとともに、刺し違える形で俺も敵の弾を腹に受けた。








「ほんと規格外ね……」


 隼と刺し違える形でノックダウンさせられたのはRainyだった。アイアンメンは最初に一撃をもらって回復していたため、ターゲットにはならなかった。


『ごめん。油断してた……。まさかあの一瞬で当てられるなんて』


 Rainyが倒されたのを見て、体力を回復していたアイアンメンから謝罪の言葉が漏れた。そんなことを言っていないで自分を蘇生してほしいとRainyは思ったが、言ってもしょうがないのでおとなしく蘇生を待つことにした。


 だがアイアンメンが自身の回復を優先したのが命取り。


 Rainyたちがいる小屋の2階に手りゅう弾が投げ込まれたのだった。


『まずい――‼』


 ノックダウンされた人間は速く動くことはできない。アイアンメンは間一髪で逃げることはできたが、Rainyはそのまま確死させられた。


『ご、ごめん――‼』


 さらに謝罪を重ねるアイアンメンだったが、今回はRainyもそれを気にしなかった。


 何故なら別のことを考えていたからだ。


(投げるタイミングと場所が上手い……。もう片方の子も、それなりにはやるのね)


 自分を確死させた相手はFRUITSMIXと出ている。つまり今のグレネードは彼女の者だったということだ。


「ほら、さっさと回復しなさい。丘の敵にも気を付けて」

『わ、分かった』


 指示を出すRainyに対し、アイアンメンは焦りを隠せない。自分のミスでRainyが死んだと思っているのだろう。


 だが実際は違う。あそこでアイアンメンがヘッドショットされるとはRainyも思っていなかったし、まさか差し違える形で隼がRainyの頭に一撃当てるとは夢にも思っていなかった。


(この試合は、負けたわね……)


 そしてRainyの思い描いた通りに、試合は終わる。


 丘の敵が2人で突っ込んできたところにアイアンメンがやられ、その隙にFRUITSMIXが隣の小屋の敵と1v1の勝負になる。そして勝ったFRUITSMIXがアイアンメンたちの戦闘を漁夫る形で試合が終了したのだった。


 ただ負けはしたもののRainyの目には今まで以上の輝きが灯っていたことを、アイアンメンを含め誰も知ることはできなかった。




 ――――――――――――――



 FPS解説⑦ 防具


 ToBFや他のバトルロワイヤルのゲームには防具が存在します。多くの場合『ヘルメット』『ベスト』『バックパック』でしょうか。厳密にはバックパックは防具ではありませんが。


 役割はそれぞれ、ヘルメットはヘッドショットダメージの軽減、ベストは胴体のダメージ軽減、バックパックは持つことのできるアイテムの最大量を増やす効果があります。そしてどの装備もレベルが1から4まであり、数字が大きいほど効果が高いです。


 感覚としてはベストとバックパックがともに超重要で、ヘルメットはまあなくてもいいかなという感じですが、隼くんたちのように狙ってヘッドショットを出すような輩がいるハイレベルな大会ではヘルメットも重要ですね。


 ちなみに今話ではアイアンメンくんが最高レベルのヘルメットを着けていましたが、読者の方には「なんでRainyたんが着けてないの?」と思った方もいたかもしれません。非常に鋭い指摘なのですが、こればっかりはRainyがアイアンメンのプライドを尊重した形で合理的な理由ではございません。「お前死んでもいいんだから私にヘルメット寄越せよ」とは言わなかったわけですね。

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