第35話 決勝――第三試合②

『火力発電所』の戦いに勝った俺たちは、そのまま南東に縮まっていく安置に向かって走っていく。


 ダメージエリアを背中に背負ったギリギリの状態だ。


『安置際で待たれてたらどうする?』

「それはないとは思うが、待たれてたら適当に戦って漁夫が来るのを待つ。安置内にいるあいつらの方が普通は有利だが、今回は毛色が違うからな」

『な、なるほど……』


 第一収縮は安置外で受けるダメージがまだそこまで多くない。適当に戦ったところで逃げればいいだろう。


 現在残っているチームは40チーム。まだまだ数が多いから、一番怖いのは漁夫だ。



 そしてそのまま俺たちは予想通り敵の襲撃に遭うことなく、安置にたどり着いた。

 さてここから上手く漁夫る側に回らなければいけない。


 とそこへ、銃声が聞こえた。


 東に1つ、南に1つだ。


「よし、行くか」

『おっけー。南、でいいよね』

「うむ。正解である」


 Xから提案されたのは南の敵を漁夫ること。そのことを聞いて、俺は少し安心した。


 俺たちは安置の北西側にいる。ここから東に行っては、マップの右上にいたすべての敵の漁夫に警戒をしなければならないし、戦い終わった後もまた敵が密集している地域で戦う羽目になる。

 その点、ここから南、つまり安置の西側に行くようにすれば、最終的に安置の南側に着くことができる。俺たちが行くコースの敵をせん滅すれば、警戒する方向が東と北だけでよくなるのだ。


 ……まあそれはそれとして、今から死ぬほど戦わないといけないんだけどね☆


「X、死んだとしても助けに行かねえからな」

『誰に言ってんのそれ。自分が死ぬケースを想定しておいた方がいいんじゃない?』


 あとはこの連戦の中で、Xにいつもの調子を取り戻してもらうだけだ。





「お、彼のチームも頑張ってるね」

『ふふ、たまたまうまくいっているようだ』


 Rainyたちの画面に出ているキルログには、隼たちが猛スピードでキルを重ねている光景が映し出されている。


(銃声は聞こえてこない……ってことは反対側か)


 隼たちの状況について詳しくは分からないが、自分たちの近くにいるわけではないらしい。

 Rainyはそう判断して、アイアンメンに言葉を返す。


「そうねえ。たしかにたまたまかもしれないけど、どうかな?」


 正直に言って今までの隼たちの戦績は、Rainyにとっては期待外れだった。

 もしかしたら頭脳役の相方が本来の調子を発揮できておらずそれに足を引っ張られているのかもしれないが、自分だったら1人でももっとやれる。そこに隼の実力不足を見出したのだった。


 だからこそ、アイアンメンの『たまたま』だといった言葉も否定することはできない。


 の、だったが。


「この試合で最後まで残ってこれば、あるいは……」


 この第三試合は今まで以上に

 中心に行けば行くほど敵の密度が薄い。つまり、大半のチームが安置際やその周辺で戦っているということだ。


 普通の大会では見られない現象。だからこの試合を残るのは相当難しい。隼たちがあれだけ戦っているということは、今もおそらく安置際にいるのだろう。


(わざとか、それともたまたまか……)


 Rainyはキルログにもう一度意識を向けて、戦況の把握を目指した。






「し、死ぬ…………。タスケテ」

『がーんばれ、がーんばれ』

「スモークグレネードの1つでも投げてくれませんかね⁉ 死ぬんだが‼」

『それくらい乗り切ってもらわないと』


 俺たちは一体いくつの敵を倒したのだろうか。結局想像以上の漁夫に巻き込まれて、最後は力押しになった感じが否めないが……。


 ただ幸いなのが、Xの立ち回りが改善されたことだろう。それに伴ってエイムも本来の力を取り戻しているし、戦いも前よりか幾分も戦いやすかった。


「あ、やばい、回復もうない」

『そこら辺に死体があるから漁ってこれば?』

「俺たち仲間だよね? ね? どうしてそんなに冷たいのカナ?」

『困ってる君を見るのが楽しい』

「最低だこいつ」


 ただ物資自体はすごくうるおった。お互い一番得意な武器を拾うこともできているし、防具も全て最高レベルのものになっている。


 残りチームもあと5チームくらい。いよいよ初のチャンピオンが見えてきた。


 見ていた感じチーム『R』はキルをそれほど重ねていない。一気に詰めるチャンス。


「お前に立ち回りは任せるからな、X」

『任せて。君は安心して敵を狙えばいいよ』

「おう」


 丘で寝そべっている敵を視認。


 沈黙を破ったのは――俺ではなくRainyの弾丸だった。


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