第33話 決勝――第一試合②

『ふっふっふ、彼も大したことなかったね』

「漁夫だったんだし、勝って当たり前だわ」


 こちらは大会優勝候補のアイアンメンとRainyの会話である。


 2人はチーム『D』とチーム『カップル』の死体を漁って物資を補充していた。


『いやいや、漁夫のことを考えながら立ち回らないといけないよ。もしかしたら漁夫が来るまでの時間を軽視していたのかもしれないね。大会はカジュアルマッチやそこらのランクマッチとは違うんだ、漁夫の早さも段違いだ』

「まあそれは一理あるかもしれないけどね」


 それにしても、とRainyは思う。


(本来はCatとDogを潰しに来るはずだったんだけど、まさかあの2人に対面で勝つとはねえ……)


 CatとDogはこの『防衛基地』を常日頃から自分たちの得意エリアとしているチームだ。それを狙ってRainyは早々に彼らを潰して隼たちに専念するつもりだった。


 結果としては期待以上のものが得られたことになる。この2チームを落としてしまえばRainyたちがこのマッチでチャンピオンを取るのはほぼ確実だ。


(相手の方が土地勘もある中で勝つとはね。ただ彼の言う通り、もう少しうまくやる必要があるでしょうけど)


 Rainyは隼の評価を試合が始まる前よりもさらに上に修正する。


「ただガールフレンドの方は……ふふ」


 Rainyのつぶやきはアイアンメンの耳に届く前に霧散した。





 第一試合で早々に脱落してしまった俺たちは、自分たちを倒したRainyたちのプレイ画面を見ながら、反省会を行なっていた。


「ちい、負けちまったか」

『ごめん、私のせいだ。あそこで死んだから……』

「いや、正直こいつら相手だと、体力がフルで残ってないとしんどい。どっちにしても負けてた」

『じゃあまずあそこに降りた私が馬鹿だったね』

「まあそれはそうかもな。ただお前の考え方も間違っちゃいねえよ」


 もしかしたら真ん中の『市街地』に降りたほうがよかったかもしれない。ただそれは結果論であって、今責めるべきことじゃない。

 しかも優勝候補チームの2チームがどちらもあそこに降りていたことを考えると、むしろXの思考は彼らに及んでいることの証拠にもなる。


「ただ漁夫警戒はもっと強くしたほうが良いかもな。まさかあんなに早く来るとは思わなかった」

『そうだね。少なくとも一方がノックダウンされるような戦いにしちゃダメだね』

「そういうこった」


 少しずつではあるがXもらしさを取り戻してきたような気がする。

 いい傾向だ。


「それより問題は、こいつらのバケモンみたいな強さの方だと思うが」

『そう、だね……』


 目の前の画面には、敵をバッタバッタと倒していくRainyの姿が見える。


 バッタバッタといってもター〇ネーター的な真正面からねじ伏せるような戦い方ではない。

 堅実に相手の裏をかいて1人をダウンさせ、もう1人を数の力で圧倒する勝ち方だ。HPもほとんど削られておらず、また非常に漁夫られにくい位置で戦っているため安定感がすさまじい。


 それに、頭のいい戦い方をしていながら、それぞれのエイム力や正面での戦闘技術も同じように化け物級である。


『伊達に日本1位って言われてないでしょ?』

「世界で通用するレベルって言われても疑問を持たないな」

『やっぱり、強い……』


 Xがそう言った言葉には、ただの尊敬だけではない感情が混ざっていたように思う。それは以前にも感じたようなものだ。


「ちなみに弱点とかは?」

『弱点? ないよ』

「なんでもいいが」

『噂だと2人の仲は悪いらしい。それくらい』

「役に立たねえ……」

『し、仕方ないでしょ。ほ、本当にないって言われてるんだからっ』


 怒ったような口調でXが言う。でも弱点って言われて仲が悪いって、マジで情報量としては無いに等しいぞ。

 しかも見てる限りでは連携に支障が出てるようにも見えないし。


 今まさに連携プレイで敵を倒してるし。


『あとはそうだね……私の見ている限りなんだけど』

「お、なんだ?」

『アイアンメンの方だけど、かなりプレイ精度にムラがあるように感じる』

「ムラ?」


 調子みたいなものだろうか。


『なんというか、感情に左右されやすいんだと思う。怒ってる時は好戦的にプレイする場面が多いし、ここぞっていう時には緊張して硬くなってるイメージもある。あと油断しやすい、弱ってる敵を倒すときとかに変に手こずることがある』

「…………ほう」


 それはいい情報ではないだろうか。

 感情に左右されやすいのは非常に重要な問題だ。なんせ、感情というのはある程度読むことが可能にだからな。相手の頭ん中をほじくるより、よほどやりやすい。


 あとは、どうやって相手の感情を誘導するか。


『ただそれもRainyには通用しないから気を付けて』


 そして、どうやって相方に気付かれないようにコントロールするか、だ。





 ――――――――――――



 FPS解説⑤ キルログ


 通常、FPSではノックダウンをされる、あるいは確死を入れられるときにキルログというものが流れます。基本的には右上ですかね。


 たとえば横糸さんが圭さんをノックダウンさせるとします。すると「横糸→圭」というようなログが、全プレイヤーの画面に表示されるようになります。つまり誰が誰を倒したのかが、誰にでも分かるわけですね。


 このキルログというのは本来のカジュアルマッチなどではほぼ役に立たないのですが、大会のように同じメンバーで何度も戦うような試合においては非常に重要な意味を持ちます。


 たとえば今回のケースにおいて、「siX_sense→Cat」「siX_sense→Dog」とキルログに流れた場合、試合にいる選手は全員「チーム『D』が倒されたぞ」と分かるわけです。するとそれによってプレイの幅が変わることが存在します。


 また「siX_sense→Cat」「Dog→FRUITSMIX」と出ていたとします。そうするとどちらのチームも1名がノックダウンされていることが分かります(もちろんノックダウンであった場合は復活させられているケースもありますが)。つまり、漁夫のタイミングを計る目安になるというわけです。


 今回Rainyが安全に漁夫ったという記述が前話にありました。これは実際に以上のような「siX_sense→Cat」「Dog→FRUITSMIX」というキルログが出ていたのにもかかわらず、どちらかのチームの全滅が分かるまでRainyが動かなかったことを示します。


 まとめるとどういうことかといえば、キルログは戦術を考えるときに役立つものだということです。また後半で優勝争いが始まったときにこのキルログさんが大活躍しますので、その時に「こんなのあったなあ」と思う程度に覚えていただけると幸いです。

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