第32話 決勝――第一試合①

『さあついにはじまりました、FAカップ、決勝戦!』

『コメントの方も盛り上がってますね~。あと、僕の悪口はやめてください傷ついてまーす』

『…………』

『とはいえ、大半は自分の応援しているチームへのコメントですね。あー僕も出たかったなあ』

『そ、それでは事前にTwitterで集めた優勝予想について見ていきましょうか。といってもやはり注目はRainy選手とアイアンメン選手のチーム『R』でしょうか。50チームある中で半数以上の期待を集めています』

『続いてはDog選手とCat選手のチーム『Animals』。こちらもプロ歴の長い、FPS界の重鎮じゅうちんみたいな人たちだからね』

『あとは予選ではsiX_sense選手とFRUITSMIX選手のチーム『カップル』ですね。予選参加ながら3番手の人気を集めています』

『こっちは予選の戦いっぷりが圧巻でした。実は僕も期待してるチームだね』


 大会本部の配信ではかつてない視聴者数をたたき出していた。


 プロの試合よりも視聴者が集まっているのは、大物ストリーマーがたくさん出場しているからだ。FPSをガチではやっていないがほどほどに楽しんでいるライトユーザーの影響である。


『マップは予選と同じ『戦場』。試合は全部で8試合となっています。争うのは50チーム総勢100名です』

『ルールは以下の通り。特にポイントの割り振り方は注目だね』


 画面には細かいルールが表示されている。


 ・1キル1ポイント


 ・最終順位によってポイントを付与。順位によるポイントは以下の通り。


 1位 20ポイント

 2位 15ポイント

 3位 12ポイント

 4位 10ポイント

 5位 9ポイント

 6位 8ポイント

 7位 7ポイント

 8位 6ポイント

 9位 5ポイント

 10位 4ポイント

 11~15位 3ポイント

 16~20位 2ポイント

 21~25位 1ポイント




『このポイントの割り方というのはどうなのでしょう』

『難しいね。多分選手が想像しているよりもキルの重要性は高まる。1キルの重みはプロの大会よりも高いと言える。その一方で優勝をすることを考えると1位を取る必要が出てくるだろうね。4位と1位でもらえるポイントに倍の差がある』

『つまり、ある程度まではキルが大事がだけど、高順位の恩恵は大きいということですか』

『そういうことになる』

『では最後に。この後の1試合目ですが、どのような試合展開になるでしょうか』

『わからない』

『あ、あのう……もう少し解説をしていただけると』

『普通の試合なら解説しやすいんだけどね。なんて言ったってRainyがいるからなあ。どうなるかさっぱりわからない』

『彼女は試合巧者として知られていますからね』

『というより、単純に頭がいいんだよ彼女は。それでいて人間の心理というものをよく理解している。ああ、やっぱ戦いたくないね』

『……それでは、第一試合の方を見ていきましょうか‼』


 こうして試合が始まった。





 第一試合、俺たちが降りたのは南東にある『ハルカス防衛基地』だった。


 てっきり予選と同じように真ん中の『オレゴン市街地』に降りると思っていた。理由を聞いたところ、『絶対にあそこは激戦区になる』とのことだった。


 そして彼女の読み通り、すでに5チームほどが姿を消している。盛り上げるのが好きなストリーマーが多いから、そういう展開になっているのかもな。


 だが予想外がひとつ――こっちにも敵が降りてきていた。


 しかも。


「うめえ……的確に当ててくるな……」

『ちゃんとこっちの位置を把握してきてる。この防衛基地で戦い慣れてるんだと思う』

「なるほど」


 こちらから銃声の方を覗いてみても敵の姿が見えない。上手く隠れられるポジションが存在するのだろう。この街で戦い慣れている証拠だ。


「どうする」

『退きたいけど、キルも稼いでおきたい……』

「どっちにするんだ」

『た、戦おう』


 そしてもうひとつ残念なお知らせ。Xが緊張している。

 いつもよりも判断力が鈍っている。決断も遅い。さては本番に弱いタイプだな?


 と、敵の姿が見えた。


 本当ならスナイパーで仕留めたいところだがまだ拾うことができていない。仕方なくアサルトライフルを放つ。


『ダメージは?』

「胴体に2発。突っ込んでこれないと思うが……」

『っ――」


 と思ったら今度はXが撃たれた。瀕死級のダメージ量である。


 これなら相手は詰めてくる。俺だったらこのタイミングを逃さない。


『回復しなきゃ……』

「回復を後回しにしろ‼ 今は走ってくる敵に一発でもダメージを入れることを考えろ。多分お前はノックダウンはさせられるだろうが、それも覚悟しとけ」

『わ、わかった』


 最低限の指示を飛ばす。Xは死ぬ前に少しでも相手へダメージを与えてもらわないと。


 もう一度敵の位置を確認する。そうするとやはりか、障害物を使いながらこちらに接近してくる相手が見えた。


「来たぞ」


 弾を数発当てる。だがその間にこっちもXが倒されてしまった。


『やられた』

「分かった、顔出すなよ。相手の位置は分かってるから、無駄に殺されるな」

『おっけ』


 相手もなかなかのやり手だ。予選よりもレベルが明らかに高い。


 顔を出せば的確に当ててくるし、出さなくてもある程度の狙いをつけて壁越しに弾をばらまいてくる。

 おかげでXもくたばったが、こっちも1人はもっていった。


 1on1だ。


 相手が倉庫の中に体を隠す。

 俺はその倉庫に目がけて弾を10発ほど撃ち続けて、そしてすぐに場所を変えた。


 場所は今まで構えていたところよりも、1つだ。


 銃声がやんだところを相手が顔を出す。

 そして顔だけではなく体まで出したところで、一斉放火だ。


「仕留めた」

『さ、さすが……』

「あ、あぶねえ」


 ギリギリの展開だった。絶対に負けたと思った。怖え。

 即座に回復を入れる。Xを助けるのはそのあとだ。


 と、そう思っていたところで。


『あぶなっ――』


 Xの悲鳴が耳に入ったのと同時。

 戦った相手のさらに奥、そこから一撃をもらってしまった。


「漁夫か……‼」

『…………ぽいね』


 そして俺を倒した敵には、『Rainy』という文字が書かれていた。





『おっしー‼ Cat選手を倒したところまではよかったんですがね‼』

『すごかったですね。普通のプレイヤーはあそこで倉庫に留まっている敵に対して詰めていくか、それとも同じ場所で待ち続けるのが普通です。現にCat選手は詰めてくるのを警戒して体まで出してしまっていた』

『あそこで一歩引いたポジション取りをするとは。siX_sense選手のポテンシャルは計り知れませんね』

『ただ、それを漁夫る機会をずっと待っていたRainy選手もさすがですね。欲をかいて2チームとも倒す選択肢もあったと思いますが、安全に倉庫周りを制圧しましたね』

『さて、第一試合は優勝候補が開幕に2チーム倒れる展開になりました。ここからどういう展開になるのでしょうか‼』


 コメント欄は、始めから高度な駆け引きを見せた隼たちに盛り上がりを見せていた。


 ―――――――――――――――――



 FPS解説④ ノックダウン、確死


 多くのバトルロワイヤル型のFPSには、ノックダウンと確死という2つの状態があります。まず、HPが尽きたときにはノックダウン状態になります。この状態ではゆっくりと這って移動するくらいしかできることはありません。ただこの状態は味方から5秒程度の救出行動を受けることで、HPが少し残った状態で再び戦線に参加することができます。今回のFRUITSMIXさんの状態もまさにそれです。今回は隼くんの指示で体を隠すように言われていましたね。次に記す確死状態にされることを恐れたのでしょう。


 確死状態というのは、ノックダウン状態の人間にさらにダメージを一定数与えることによって戦線復帰を不可能にされた状態のことです。この場合は箱型のオブジェクトにになって、敵味方が拾うことのできる物資の状態になります。ちなみにノックダウン状態にダメージを与えずとも、相手の生き残っているチームメンバーの最後の1人を倒すことでも、ノックダウン状態の人間は全員確死状態に変わります。みんな箱です。BOXになります。また確死を取られたプレイヤーの画面は、味方が生き残っている場合は味方のプレイ画面、そうでない場合はキルされた敵のプレイ画面をみることになります。


 ちなみにキル判定が入るのはノックダウンをした人間になります。例えばAさんがノックダウンを取ってBさんが確死をいれた場合はAさんのキルになります。


 ちなみに、確死をいれられると一気にゲームのやる気がなくなります。ゲームによってはそこから復活というパターンもあるのですが、いかんせん暇です。確死を取られないように立ち回りましょう。

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