第26話 大会?

 さて、冬休みに入ったことで、自由時間が多くなった。冬休みといえばクリスマスに年末、正月とイベントが目白押しだ。


 学生の身分としても気が抜けやすい時期ではある。ただ父親にあれだけ言った手前、勉強に手を抜いて遊びまくる、ということはできない。


「まあ、ちょっとゲームやったら勉強すっか」


 御伽は相変わらずの多忙っぷりで仕事をしているので、家に一人。昼ご飯まではゲームをしていても怒られんだろう。


 パソコンを立ち上げると、すでにⅩがログインしていることが分かった。


「おっす」

『おっすじゃないよ。寝坊?』

「寝坊も何も、約束もしてなかっただろ……」


 開口かいこう一番、不機嫌そうな声をしているⅩ。こいつは相変わらず通常運転という感じだな。


『全く。ゲームは1日サボっただけで下手になるんだよ』

「へいへい。まあどっちかといえば冬休み始まってすぐゲームをやってる高校3年生の方が問題児って感じだけどな」

『うるさい。早くログインして』

「……すんません」


 強引な女だ。こういうやつは絶対に友達は少ないタイプだ。俺にはわかる。


「まあ、クリスマスに予定がないことだけでも分かるか……」

『ふっ』


 俺がポツリとつぶやいた言葉に対して、Ⅹは鼻で笑った。


「なんだよ」

『それは君も一緒でしょ。そもそも、クリスマスだとかなんだとか、くだらない』

「おいおいそんなこと言うもんじゃないぞ。そのセリフはクリスマスに予定がないやつがよく言う言い訳だからな」

『私、恋愛とか興味ないし』


 それで話は終わりだと言わんばかりに、彼女はゲームマッチに入る。


『あ、そういえば』


 と思ったら、ゲーム内で空中をパラシュートで滑空しながら、思い出したようにⅩが言う。


「どした?」

『冬休み中に大会に出ることに決めたから』

「…………大会?」


 一体何の大会だ、と俺は思った。

 そんな俺の心を読むように、Ⅹは補足をしてくる。


『ToBFの大会』

「そんなのあるのか?」

『有名な日本のプロゲーマーが主催する大会なの。2人チームで参加だから、エントリーしてみた』

「いつの間に……ってかそんな話、俺は聞いてないんだが」

『いま言った』


 そうじゃなくて、エントリーする前に許可を取れって言ってんだよ……。

 まあ別に暇だからいいけどさ。


「てことは、有名なプロゲーマーも参加するのか」

『参加チームは全部で50チーム。有名なプロゲーマー、配信者、あとはYoutuberとかVtuberも出る。お祭り感覚の大会だとは思うけど、その割にはレベルは高い』

「へえー」


 そういうもんなのか。50チームも作るのは大変そうだが、2人でコンビを組むだけだから意外とそうでもないのだろうか。


『それになんと、あの日本最強と言われる男性プレイヤーの「アイアンメン」と女性プレイヤーの「Rainy」も参加するって言われてる』

「…………強いのか?」


 あまりプロゲーマー事情に詳しくない俺はそう聞き返す。

 もしかしたら長谷川あたりに聞けば嬉々として教えてくれるのかもしれないが、Ⅹは逆に苦々しそうな声色だった。


『どっちも日本じゃ手を付けられないって言われてるプレイヤーよ。実際にチームも組んでるから連携もばっちりでしょうね……』


 どうやら本気でライバルだと思っているらしい。ライバルか、もしかしたら倒さなければならない壁だと思っているのかもしれない。


「でも、よく50チームに選ばれたな。俺たち全く無名も無名だが」

『選ばれてないわ。予選があるの』

「予選?」


 そのあとⅩに詳しい話を聞いた。それによると、どうやら以下のような感じで予選が開かれるらしい。


 ・50チームのうち、5チームは予選を勝ち抜いたチームが参加。

 ・1日で10試合戦って、順位とキル数によるポイントで上位5チームが勝ちぬけ。

 ・こちらの予選も全部で50チームいるらしい。(この50チームは厳正な審査とランクマッチのレーティングを基準に決められている)


『そして、予選と決勝のどちらもを戦ううえで、大事な条件がある』

「条件?」

『そう。それは、Youtubeで配信をすること』

「え゛っ」


 はい……しん?


『配信もしてないよくわからないチームが勝っても面白くないじゃない。だからどのチームも配信は決定事項。あとはこっちの予選上がりのチームの実力を視聴者や決勝に出るプレイヤーが知るためでもあるらしい』


 なるほど、配信も何もせずに大会本番が始まったら、予選上がりのチームは情報も何もなく応援はしにくくなる。万が一にでも勝ったら白けてしまうし、それを防ぐためということなのだろう。


『まあ一応大会本部が盛り上げの実況配信をするらしいから、上手く喋れなくても大丈夫よ』

「なんで俺が全然喋れない前提なんだ」

『学校で喋ってないから』


 ぐはぁ――っ‼ 痛いところを突かれちまったぜ……。


 それで思い出したけど、長谷川のやつⅩの正体が分からなかったって言ってたんだよな。ここであいつのことを少しでも知ってたら言い返せるのに。


「でも、1個いいか?」

『どうしたの?』

「俺、配信とか全然やり方わかんないんだけど……」


 そんなことよりも唯一の心配事項は配信のやり方の方だ。

 パソコンとかマイクとか必要な機材はそろっていると思うが、やり方はさっぱりわからん。配信って、ボタン一つで上手く行けたりする? しないよね?


『そこは任せて。考えはあるから』

「考えって?」

『今日の午後3時。空けといて』

「うわ、なんだ急だな」

『君の家に行くから』


 ――――――ん? 家に、行く? 誰が、誰の家に?


 って。


「ええええぇぇぇぇぇぇええええ⁉」


 急にもほどがある。なんだいきなり、家に来るって。


 ってか、こいつあっさり素性とかバラしちゃうの? てっきり『秘密の多い女』として売っていくのかと思ったんだが、来ちゃうの? え?


 まて、ここは慌てるところではない。落ち着け、変に慌てたら女慣れしていないやつだと思われる。


「分かった、3時だな」


 深呼吸をしてなんでもないという声色を作る。

 だが心臓は、バックバック言っていた。


 そのあと1時間くらいゲームをした後に、ベッドに寝転がってどんな女子が来るのか考えていた。


 かわいい人……いや、あの暴力的な言葉遣いをするやつは絶対にかわいくない。

 いや、でも声だけはかわいいんだよな……。いやいや、期待するな期待するな。


 男、六原隼。ここで変な期待をしては、裏切られた時に心が持たぬぞ。


 よーし、深呼吸深呼吸。そうだ、まだ本人が来ると決まったわけでもない。お金持ちぽかったし、使用人みたいなおじいちゃんが来る可能性だってあるさ。





 時刻は15時10分前。


 扉を開ける。


 目の前にいたのは。


 マスクにサングラスに黒い帽子に黒いコートに真っ黒なローファーに真っ黒なマフラーをした、黒ずくめの女だった。


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