第19話 犯人探し
「というわけだ。奴の素性を突き止めて、俺に教えてもらいたい」
「相変わらず無理を言ってくるなあ……」
俺は週末にあったことをすぐに長谷川に話し、FRUITSMIX捜索隊のリーダーとした。
「頼む。このままではあいつに好き放題させることになる」
「あいつって……一応先輩なんだろ?」
「いや、犯罪者だ」
「犯罪者?」
奇妙な呼び名に長谷川も戸惑っているようだったが、はぁ、とため息を吐く。
「まあ俺も多少興味があるから探すのはいいけど……なにか特徴みたいな、そういうのないのか?」
「3年生、この学校、女。それくらいだ」
「……何人いると思ってる?」
呆れた顔をしている長谷川。いや、でも本当に個人情報については一切と言っていいほど教えられてないからなあ。
と思っていたのだが、もう一つXのパーソナルデータとして心当たりがあった。
「あ、でも多分お金持ちだと思う」
「…………根拠は?」
「俺にクソ高いパソコンとかゲーム一式を送ってきた。さすがに俺を知っていたとしても、金持ちじゃなきゃそこまでやれないはずだ」
「それはたしかに、一理あるな」
ふむ、と手を顎につけて考える長谷川。
その様子を見て「きゃっ、かっこいい……」とほざく女子がいるもんだから、イケメンは今すぐにでも駆逐したいと思ったりもする。
「とにかく、早急に探してくれ。俺が動くと警戒されちまう」
「その条件ならすぐに見つかりそうだ。ただ見つからなくても怒るなよ」
「おう」
そう言いながらも、長谷川ならすぐに見つけるに違いないと俺はそう確信していた。
その隼の予想は的中し、長谷川は放課後の段階でFRUITSMIXの正体だと思われる女性を見つけていた。
(案外俺も探偵業とか向いてるのかもな……ってあれは無理か)
長谷川が目を付けたのは、3年生の
親が不動産会社の社長をやっており、お金持ち。同級生からも尊敬されていて、3年生では屈指の成績を誇る。
そして長谷川が彼女を疑っている理由は、長谷川が唯一siX_senseの名前を出した場に彼女が居合わせていたことを鮮明に覚えていたからだ。
唯一の反論と言えば隼が言っていた人柄と学校での彼女の評価が異なることだが……。
(大体みんな裏表あるからな。そんなもんだろ)
逆にそこが乖離しているからこそ、彼女が怪しい理由になっていた。
「さて、本所先輩はいつも美術部の教室に寄ってから帰る傾向にある、と……」
「――私がどうかした?」
ぞぞっと長谷川の背筋に寒気がした。
なぜなら彼女の声は、美術部の使っている教室の内側から聞こえてきたのだった。
(――いつの間に、いや、俺が先輩のことを調べていたのがバレてたか……)
長谷川はすぐに答えにたどり着き、動揺を漏らさないように果穂に向き合った。
「いえ、実は先輩のファンだったので、つけてきてしまいました」
「あら君は彼女がいたと思ったけど?」
適当な言い訳は通用しないらしい。
「いえ、先輩の描く絵のファンです。恋愛的には俺は
千紗という名前は長谷川の彼女だ。1年以上前から付き合っている。
「そうなんだ。でも大丈夫? 女の子の先輩と2人きりで会ってたって聞いたら、彼女怒らせちゃうんじゃない?」
「大丈夫です、絵をちょっと見て帰るだけですから」
長谷川としては彼女がFRUITSMIXであるという確証はほぼ取れた。
あとは退散するだけでよい。
――だが。
「ちょっと待って、長谷川くん」
彼を呼び止めたのは彼女の方だった。
「なんですか?」
「君が私について調べていたことは知ってるわ」
ずばり長谷川の行動を言い当てた果穂。だが長谷川はその言葉を聞いても全く反応を変えなかった。
「先に言っておくわ。私がたしかにFRUITSMIXよ」
だがしかし、次に彼女からそれを打ち明けられた時には、さすがに驚いた。
目を丸くした長谷川は、おずおずと尋ねる。
「なぜそれを今自分から明かしたのか、教えてもらっても……?」
「簡単よ、お願いをしたいから」
「お願い?」
長谷川が聞き返すと、果穂は
「私のこと、隼くんには黙っててほしいの」
実はこの時長谷川が一番驚いたのは、果穂が隼のことを下の名前で呼んでいたことだったのだが、さすがに果穂がそれに気づいた様子はない。
「理由を聞いてもいいですか?」
「ええ、いいわよ。といっても単なるサプライズね」
「サプライズ?」
「私、高校卒業したらそのまま配信者になるつもりなんだけど……卒業式で彼に教えてあげようと思ってるの」
「卒業式にですか」
「だからサプライズなの。悪戯といってもいいかも」
ふふ、と果穂は笑う。確かにそれは好きな男子に悪戯をしようとあれこれ考えている乙女の顔だと長谷川は思った。
(あいつも意外と罪な奴だよなあ)
自分のことを棚に上げて長谷川はそう思う。
「分かりました。そこまで言うなら、あいつには黙っておきましょう」
「ありがと。話が早くて助かるわ」
「ああ、でもひとつだけ」
「なにかしら?」
立ち去ろうとした果穂に、長谷川はひとつだけ質問をした。
「顔を合わせるのが恥ずかしい……とかいう理由ではないですよね?」
「……………………当たり前よ」
むっと唇を尖らせた果穂を見て、長谷川は「まあお似合いかもな」とどうでもいいことを思った。
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