第16話 高校生は進路で悩む②

「ちっ、取り逃した。そっちいったぞ‼」

『ぷくくくく、あれを仕留めきれないなんて、天下のsiX_senseさんもまだまだだね~』

「ババババババババッッ」

『あ、ちょっと何するの‼ このゲーム、味方の銃弾でもダメージ食らうんだけど⁉』

「うるせえ」


 俺はあれから毎日のようにXことFRUITSMIXと一緒にゲームをしていた。

 といってもまだ3日目だが。


 時間は夜10時から12時までの2時間ほどだ。

 こっちも授業に支障が出るほどゲームをするわけにもいかないし、いくら部屋が離れているとはいえ夜遅くまで騒ぐわけにもいかないからな。もちろん声のボリュームも落とす必要もある。


『一応ランクマッチなんだけど? 真面目にやってくれる、二等兵』

「いつの間に俺は二等兵になったんだ」


 そしてカジュアルマッチと呼ばれる普通のマッチでは負けないことの方が多く面白くないということで、今はランクマッチに潜り込んでいる。

 ランクマッチとは試合の勝敗、それとキル数に応じてレーティングが変化していくものだ。勝ったりキルを多くとるとレーティングが上がり、負けたりするとレーティングが下がる。そしてレーティングが高くなってくると自分と同じくらいのレーティングとしか戦わなくなるため、徐々に当たる相手が実力の拮抗する人間に調整されてくるというシステムである。


 まあ簡単な話、勝てば勝つほど強い相手と当たるようになるのだ。


「まあ安心しろ。お前のしかばねは拾ってやる」

『……ほんと、いい性格してるね君』

「どういたしまして」

『次は背中に気を付けておいたほうが良いよ?』


 ただ今のところはレーティングを上げている途中なので、相手もそこまで強いわけでもなく余裕がある。だからこういった馬鹿なやり取りも多い。

 まあそれでもこの調子で行けば来週にでも最高レーティング帯の2000台に到達するだろう。


「――にしても、ほんとに強いな、お前」

『あれ? 褒めてくれてるの? 珍しい』

「デュオでこんな速さでレーティングが上がってくの、なかなかないだろ」


 俺がこう口にしているのは、ランクマッチのシステムの話を念頭に置いている。ランクマッチは人数の分散を防ぐために4人1組のモードのみを採用している。

 俺はXと2人組のパーティを組んでいるため、残りの2人は「野良」といって自分の知らない相手と組むことになる。もちろん意思疎通を取ることもできない。


 野良は、いわゆるガチャだ。強い人を引くこともあるし、初心者同然の人を引くことになる。そしてこれが、俺がランクマッチをやらない理由でもあった。

 4人チームとなると、1人ではどうにもならないことが多々ある。そもそも相手は4人パーティを組んで、今の俺とXのように報告しあいながら戦っていることが多い。連携力で差を付けられると、いかに撃ち合いでこっちの方が勝っていても勝負に負けることが少なくなかったのだ。


 だからこそ、デュオ――つまり俺以外のもう一人の知り合いとパーティーを組んでいても、チームの半分は知らない人間だ。つまり実力が運に左右される。ふつうはそう簡単に勝ち続けられるものではないだろう。


 だがしかし、現状――俺とXの2人だけでなんとかなっている。野良の実力に左右されずに。

 そしてそれこそが、俺がこうしてXを評価している理由だった。


『まあそれは、君の化け物じみたエイムりょくがあったからだと思うけど』

「その化け物に余裕で命令してくるお前は、じゃあ一体なんなんだ」


 この3日プレイして、彼女についても分かってきたことがある。


 まず彼女は、とても頭がいい。これは1日目にも感じたことだったが、どうすればいいポジションで戦えるのか、どう戦ったら相手が嫌がるのか。そういったところによく頭が回る。もちろん俺もある程度は分かるが、彼女の場合はその信頼度、つまり正確さが俺よりも上だった。


 それから、同時に味方のこともよく見えている。味方4人の位置を常に把握していて、上手く操っている。始めに『隊長と呼んでくれ』とふざけて言われたが、たしかに指揮系統しきけいとうをやらせたらピカイチだ。これは俺には全く持ち合わせていない力だった。


 そしてもちろん、撃ち合いに関してもバケモンみたいに強い。彼女は俺と違いリスクを取らず正面から撃ち合うことが少ないが、エイム力、正確性、体の出し方どれをとっても超一流だ。


 つまり、全部が完成されている。彼女は「天才」というよりも「最強」が似合うような戦士だった。







「なあ、お前、将来何になるの?」


 俺は、ここ2日間ずっと頭を悩ませていたことを、彼女にも聞いてみた。彼女は自分と同じ高校で、しかも年上だと言っていたから3年生だろう。

 進路が決まっていないはずはない。


『私? 私は、プロゲーマーになるよ』


 彼女は驚くほどあっさりと自分のなりたいものを口にした。

 だがその答えはある意味ですっと腑に落ちた。これだけ上手いのならば、当然だろう。今の実力でも十分通用するように見えた。


 だが、同時に驚きもあった。

 俺と同じ高校にいるということは、それなりに勉強ができるということだ。それなのに、プロゲーマーというリスクある職業になるとあっさり言い切れるその自信は、少なくとも俺には新鮮だった。


「すごいな……Xは」

『X……? まあいいけど、別にすごくないよ。いまどき、プロゲーマーもそんなに珍しくないでしょ?』

「でもうちの高校から行くのは珍しいんじゃないか」

『そんなの関係ないよ。それにユーチューブとかで配信もする予定だから、安定した収入も見込めるし』


 意外にも大人な回答が返ってくる。そうか、収入のことについてもしっかり解決方法を考えているのか。

 たしかにプロゲーマーだけでは今の日本では大変だろうが、配信者も兼ねればそこは補完できるし実際にそうしているプロゲーマーも少なくない。


 自分の理想に対して現実的な側面も考えているXは、やはり俺よりも年上なのだろう。しっかり自分の将来について考えているのだ。


「ありがとう、参考になったよ」

『そう? 君もぜひプロゲーマーになろうね。そうしたら一緒にチームを組もう』

「何年先の話をしてんだよ」


 そう言いながらも俺は、彼女の軽口かるくちに高揚している自分に気が付いた。




 ――――――――――――



 FPS解説② エイムりょく


 エイム力とは、日本語にそのまま訳せば「相手を狙う力」のことです。実戦で行くと、相手に弾を当てる精度の高さと言い換えてもいいです。つまり、「お前エイム力が高いな‼」と言えば、「お前ほんと相手に弾を当てるのうめえなあ」という意味になります。

 また似たような言葉で「エイムがいい」「エイムが悪い」と言うことがあります。本作品でもいずれ登場する言葉です。察しのいい方ならわかるかもしれませんが、「エイムが良い」というのは「弾がよく当たっている状態」を指し、「エイムが悪い」は「弾が全然当たらん!」ということになります。「やっべー、今日の俺、エイム悪いわ~」みたいな使い方ですね。


 このエイム力は、実際のところあまり評価されにくい部分だったりします。特にプロにおいては「エイムは良くて当たり前」と考えられているのです。また頭のいいプレイに比べて、エイム良く相手にダメージを与えても「ごり押し感」が出てしまうということもあるでしょうか。特に日本ではあまり評価されにくいところであるように思います。


 ただ実際、エイム力は人によって差があり、エイム力が良い人間の方が当たり前に強いです。というかわたくしはエイム力がFPSの力の半分くらいを占めると思っています。それくらい重要なものだと思って下さい。


 エイム力が壊滅的な作者より。



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