第14話 天才と最強の邂逅

 俺のモニターの前には「YOU ARE CHAMPION!」と光る文字が正面に出ている。

 どうやらこのゲームに勝ったらしい。


 らしい、と自分でも他人事なのは、それが今までにない勝ち方だったからだ。


 俺が26キル。そしてXが19キル。


 今のゲームモードは同じマッチに2人組が50チーム、つまり100人いることになるので、俺とXで約半分ほどを倒したことになる。

 こんな数字は、プロがデュオでやっても出せるような数字ではなかった。


 もはやこいつの動きを見ていて、俺は試合の途中からできるなどとは思わなくなった。


 俺と同レベル――あるいはそれ以上にできるやつだと、確信した。


「なあ、お前一体何者なんだよ」


 俺はぶっきらぼうにそう聞く。


『ナニモノッテ……キミトオナジ、ゲーマーダヨ』

「同じ、か」


 これ見よがしに俺はため息をいた。

 それから、口にする。


「なあ、そろそろその変声機ボイスチェンジャー、外さないか? それで話されるとお前の本心が分からんし、話しづらい」

『――――⁉』


 いきなりの俺の提案に、やつは面食らっている様子だ。まさかこんなことを言われるとは思ってもいなかったらしい。


『ソレハ……ソウダケド』

「お前が俺にわざわざあんなことをしてきた理由、それにお前が一体どういうやつか。腹を割って話そうぜ。お前みたいに強いやつ、なかなか一緒に遊べる機会もないしな」

『…………』


 ちなみにこれは嘘である。俺は一緒にFPSをやる友達などいない(どや顔)。


 俺の言葉に少し逡巡しゅんじゅんを見せるX。それでも返事はすぐに返ってきた。


『ワカッタ。ショウガナイナ』

「…………意外と素直だな」


 そして意外にもあっさり了承されたため、拍子抜ける俺。

 それを見透かされたのか、Xは『フフッ』と笑った。


『デモ、ハラヲワッテハナソウッテイッタケド、ワタシがアナタニパソコンヲアゲタリユウ、カクスツモリナイヨ』

「え?」


 変声機を外すと約束したXは、なおも機械的な高音で話し続ける。

 そして意外なことを言った。


『ダッテワタシ――――君のこと、よく知っているから。ね、六原隼くん?』


 そして一呼吸を置いた後に聞こえてきた人間の声は、の声だった。


「お、女――⁉」

『…………やっぱりそういう反応か。うん、予想通りだね』


 ヘッドホンの先からは、苦笑気味の声が聞こえる。


 彼女の声は、なんと言ったらいいのだろうか。最初の印象は、背筋を正したくなるような声だということ。ただ、喋り方はゆったりとしているため、どちらかといえばどこかのお嬢様といった感じなのか。

 そういえば通話も最初のうちは緊張気味の口調だったが、徐々に言葉遣いもおとなしくなっていた。


「い、いや、すまん。そういうつもりじゃなくて、ただ男だと思い込んでたから」

『いいよ。こういうゲームは男子の方が好きなのは知ってるから』


 そこには非難の色がなく、事実を客観的に語っているような様子だった。

 ただ同時にそれ以上そういう話をしたいという感じでもなかったため、俺は話を変える。


「それで、俺のことをよく知っているっていうのは……」

『ああ、それそれ』


 どうやら俺の判断は正しかったらしく、彼女が上機嫌に笑う声が聞こえる。


 そして上機嫌ついでに、からかうような口調で次のことを言われた。


『知ってるも何も、同じ高校だからね。君と私』

「同じ高校なのか――ッ⁉」


 いやいや、さらっと言ったけど……今年で一番驚いたぞ。いや、一番は拾ってくれた女が有名な女優だったことだが、それに匹敵するレベルで驚いた。


「まさか、同じクラスじゃないだろうな……?」

『さあね。それよりも、次の試合に行こう、隊長』

「はぐらかすな‼ 気になって夜も眠れないんだが⁉」

『大げさだなあ』


 俺は会話に思考のリソースの30パーセントを割きながら、あとの70パーセントで必死に頭の中で検索をかけていた。この女の特徴、雰囲気から相手の素性すじょうを突き止めるためだ。こちらだけ名前も顔も知られているのは恥ずかしい。

 だがどうにもこうにも、「俺の話したことがある同じ高校の女子」でヒットする人物が0人で、それ以上の情報が得られなかった。くそう、俺の脳の検索機能、壊れてやがる!


『ほーら隊長。次行こうよ次っ』

「うるせえ今考えてるところなんだ‼」

『「うるせえ」って……一応私の方が年上なんだけどなあ……』


 ただ逆に、どうにも頭をひねったところで自分の知っている人間ではないらしいということだけは分かった。

 まあいい。同じ高校なのだから、じきに分かるだろう。


「ああ――っ、もやもやする!」

『隊長、頑張ろう!』

「お前のせいだ‼」


 調子よく絡んでくるXだったが、不思議なことに悪い気はしなかった。

 というか初対面で、しかも女子だと分かった相手にここまで気楽に話せている自分に驚いた。


 …………もしかしたら、最初から最後まで相手にペースを握られていたのかもしれない。


 そう気が付いたのは、彼女とちょうど5戦目をやっているときだった。


『あっ、よそ事考えてたらだめだよ‼ ほら、南東100の方向に敵‼』

「というか、どう考えてもお前の方が隊長だろ……」


 彼女の指示とも呼べる声に、俺は呆れ気味に言う。


 結局その日は彼女と一緒に10試合戦ったが、一度も負けることはなかった。




 ――――――――――――――――



 ようやくですが、少しずつFPS要素が入ってきました。

 これでタイトル詐欺じゃなくなるなあ、と胸をなでおろしている作者でございます。

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