第13話 ボイスチェンジャーはイマドキ流行らない②

 このFRUITSMIXというやつのことは、えっくすと呼ぶことにしよう。俺は最初にそう決めた。もちろん心の中で、だが。

 容疑者X。うん、わかりやすい。


『キョウハ、ヨロシクオネガイシマスネ』


 ただそういう認識とは別に、話しづらいなとそう思った。

 なんせ相手が何を考えているのかもわからない。声の高低や抑揚くらいは伝わってくるのだが、なんせ言葉に「温度」がない。あと、地味に甲高い声が頭に響いて痛い。


 だが最初に警戒していたほど悪意はないようで、『お前がいま誰と一緒に住んでるか分かってるから、黙ってやる代わりに金をよこせ』という展開にはならないだろうと安心した。


「そ、それじゃあ」

『ハ、ハイ』

「……い、一戦、とりあえずやりますか」

『ソ、ソウデスネ!』


 そしてもう一つ分かったことがあるとすれば、相手も話し慣れていないタイプの人間だということだ。

 ちなみにそれを判断するコツは、何かを喋る前に「あ、」とか「そ、」とかワンクッションを置くか置かないかで判断できるゾ。置くやつは基本的に陰キャだと思っとけばいいゾ。ん、オレ? オレの場合はいいんだゾ。


『ア、アノ……』


 試合が始まるまでの間、しきりに話を振ってきたのはXの方だ。


「な、なんですか?」

『ナントオヨビスレバ、ヨイデショウカ?』

「えー、適当に呼んでください……」

『ジャア、タイチョウ! トオヨビシテモ、イイデショウカ!』

「隊長……? まあ別にいいですが……俺っていったい何の隊に所属してるんだ……?」

『フフッ。オモシロイヒトデスネ』


 そしてよくわからない呼び名を設定される。

 どうやらXの方はそういう呼び方に憧れがあったらしい。まあ分からんでもない。なら誰しもが同じ道をたどる。


 そして俺は会話の中で、「パソコンをどうして俺に送ってきたんですか?」とは口にしなかった。

 それは俺の意識からすっぽり抜け落ちていたのもあるし、予想以上に俺がXのペースに飲まれていたのもある。


「じゃあ適当に降りますね」

『オ、オネガイシマス!』


 ただゲームが始まれば、そういったものは関係ない。俺はいつも通りやるだけだし、会話する内容もFPSのことだけだ。

 幸い、やつからも緊張からか口数が減った。


(さて、適当にあさって敵を探しにいくか)


 このゲームでは、広大なマップのあらゆるところに落ちている物資を拾って戦うゲームだ。

 落ちているのは武器、弾丸、回復、グレネード、防具。あとは武器につけるアタッチメントというパーツで、これを武器に装着することで武器の性能を強化することができる。


 人によって戦い方はそれぞれだが、俺の場合は最低限のものだけ拾って、さっさと敵を倒しに行くスタイルだ。そっちの方が楽しいし、相手を倒すことができれば自然と相手の持っていた装備を拾って物資を豊かにすることができる。


「じゃあ先、市街地の方に向かってますね」

『ア、ワタシモツイテイキマス!』


 だからそういうスタイルの都合上で物資を拾うのにかける時間が少なく、味方を置き去りにしていくことの方が多い。だが、意外にもXは俺に合わせてついてきた。

 それは初心者では難しい動きのため、Xも一応このゲームをはやっていることになる。


(すごいな、ついてくるとは……)


 素直に感心しながら、俺はモニターの中心に目を向ける。


「北東に敵。あの家の中ですね」

『ミエマシタ!』


 そして俺の報告に対する反応も速い。

 もしかしたら友達と一緒にプレイするのに慣れているのかもしれないな、と俺は場違いなことを考えていた。


「じゃあ撃ちます」


 そんなことよりも目の前の敵に集中する。

 俺は自分のスコープの中で相手を一人倒したことを確認して、銃に弾をリロードする。ちなみにこのゲームモードは2人1組で戦うモードなので、もう一人倒した敵の仲間がいるはずだ。


『ス、スゴイ……。コノキョリデ、10パツモツカワズ、タオスナンテ……』


 Xから驚きの声が上がったが、相手は武器を拾うのに夢中になって止まっている敵だ。そんな大したことでもない。


『ア、ミギデ、アシオトガシマシタ。150メートルサキ、デス!』

「おっけー。じゃあそいつを潰そう」


 だが驚いているときでもXは注意を怠らなかったらしい。俺には聞き取れなかった足音を聞いて、瞬時に敵の場所を発見していた。



「なかなかやる……」

『エ?』


 俺のつぶやきに反応したようだったが、その隙に俺はもう一人の敵も倒してしまった。


『ア‼ ワタシノエモノ‼』


(わたし……?)


 その口調に少しだけ疑問を覚えたが、一目散に敵の死体に走っていくXの姿を見て俺も銃のリロードをした。




 ―――――――――――――――


 一応この作品はFPSをやったことのない方にも読んでいただきたいため、こうして後ろに注釈をつけることがあると思います。ただFPSをやったことある方ならば読む必要はないことばかりですし、FPSを知らない方にも極力説明する必要はないように本文を作っておりますので、面倒な方はスルーしてくださいね。あと、それでも分からなかった場合は「用語が多すぎてわかんないぜ!」って感想を送ってください。楽しく読めるように適宜修正するつもりですので。



 FPS解説① バトルロワイヤル

 バトルロワイヤルとは、その名の通り最後の1人(あるいは1チーム)が決まるまで戦い続ける生き残り型のゲームです。FPSでは最も流行っているタイプの1つで、ToBFもこのタイプに属します。

 最初は広大なマップにそれぞれのチームが降りたつため、バトルはそこまで苛烈にはなりませんが、時間経過とともにマップに居続けられる場所が狭まっていきます(居続けられる場所を安置、それ以外を安置外と呼ぶことが多い)。

 バトルロワイヤルに求められるのは、いかに敵を倒したり色々なところをめぐって武器や装備を強くするか、いかに有利なポジションで戦うか、そして言わずもがないかに撃ち合いで負けないか、です。

 あとバトルロワイヤルの特徴の一つといえば、運が絡みやすいところでしょうかね。

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