第12話 ボイスチェンジャーはイマドキ流行らない①

 俺にとってFPSとは一人でやるゲームだった。


 なぜかと言えば、理由はたくさんある。たとえば友達がいないからとか、やる友達がいないからとか、FPSを友達はいないからとか……実にたくさんの理由がある。


 だから、そんな俺と一緒にFPSをやる人間ができたことは、人生最大の変換点と言っていいかもしれない。




 謎のパソコンが届けられて次の日、日曜日。

 家主は俺のためにと椅子と机をアマゾーンでポチってすぐに、仕事に出かけていった。


 昼過ぎにパソコンの初期設定を終えると、俺は警戒心よりも好奇心の方が高まっていた。最高峰のゲーム環境でゲームがやれることに、我慢ができなくなっていたのだった。

 うちの家主もパソコンのスペック自体は負けず劣らずという感じだったが、キーボードもゲーム用ではなかったし、何よりオーディオに関わるところは段違いである。


 念のためウイルスがパソコン内に入っていないか確認した俺は、すぐに一番好きなFPSである「Top of Battle Field」通称ToBFをダウンロードする。気分は新作のゲームを買った日の帰り道という感じだ。


「よし、まずは一戦……」


 俺は持っていたアカウントでログインをすると、一戦やってこの新しいゲーム環境がいかがなものかチェックしようとしていた。


 そんなとき。


 まさに俺がログインをしたタイミングを見計らったかのように、俺にメッセージが飛んできたのだ。


『一緒にプレイしていただけませんか?』


 内容はフレンド登録の依頼だった。これは、パソコンゲームは互いにIDを教えあうことで一緒に遊べるようになっているためだ。

 例えばこのゲームでいくと、フレンド同士であれば最大で4人までパーティを組んで一緒に戦場に行ける。


 ――それでもただのフレンド申請なら普通に遊んでいてもよく送られてくるので、普段は無視をする。

 だが今回ばかりは、無視し得ない事情があった。


FRUITSMIXフルーツミックス……あいつか」


 そこで俺は、昨日送られてきた荷物の差出人の欄を思い出していた。


 そう、たしかあそこに載っていたのも同じ名前。


「つまり、お前からこれは送られてきたってことか……」


 どうやらパソコンを送ってきた張本人からのフレンド依頼ということらしい。

 それは、無視できない情報だった。


「はぁ、あんまり人とやるのは好きじゃないんだけどな……」


 そう言いながらもメッセージを返す。どういう意図かは知らないが、パソコンを送ってきた人間からの依頼は、命令に近いようなものだ。

 少なくとも俺はそう捉えた。


『ありがとうございます! じゃあディスコ―ドのIDも教えるので、通話しながらやりましょう!』

「…………え?」


 だが、俺の了承メールに対し返ってきたのは、予想だにしないものだった。


 つ、通話……?


 あらかじめ俺の名誉のために言っておくが、通話を忌避きひするのは俺がコミュ障だとか知らない人と話すのが苦手だからではない。断じて、決して、絶対に違う。


 俺がこのメッセージに驚いたのは、顔も合わせたことがない人間と通話をするという行動それ自体に忌避感を覚えたからだ。それはもしかしたら俺が高校生で未熟だからかもしれないが、世間一般に見ても警戒する行動ではないだろうか。


 ただ、そういう事情があったとしても、俺がこれに拒否権を持っていないことも事実だ。


 そうさ~100パーセント緊張~♪ もう通話するしかないさ~♪ と頭の中で変な替え歌を作りながら、震える手でディスコードと言われる通話メッセージアプリを開く。


「ていうか、FRUITSMIXって名前てきとうすぎないか? まあ俺も言えた立場じゃないだろうけど……」


 まるで女子が5秒で考えたような名前だな、とか思ったりする。まあそういう話で行くと俺の名前なんて男子が1秒で考えるような安直な感じだが。


 無駄に良質なマイクの準備をしながら、どういう自己紹介をしようか、相手はどんな人なのだろうかとずっと考えていた。

 相手はもしかしたら自分のことを知っているのかもしれないが、それはそれとして第一印象というやつは大事だろう。


 準備を終えてヘッドホンをし、「それじゃあ通話しますね」とメッセージを送った。と同時に、猛烈な緊張が押し寄せてきた。


「あ、あ、聞こえますか……?」


 先制パンチは俺の声。だが最悪の出だしだった。話し方が、話し慣れていないやつのそれでしかなかったのだ。


『ア、モシモシ? イキナリスミマセン。キュウニレンラクシチャッテ……』


 だが相手の返事は、さらに俺の上(?)を行くものだった。


 その声質は、俗に言う「ケロケロボイス」というやつで、要は相手はボイスチェンジャーを使っているのだった。ボイスチェンジャー、つまりは声を変える機械。


 …………事件の容疑者やんけ。


 俺は昨日からずっと持ち続けていた印象とその宇宙人みたいなボイスとを擦り合わせて、相手のことをそう認識していた。



 ―――――――――――――――――



 あまりにも説明が多くなってしまったので、今日は20時にもう一話上げる予定です。


 あと、カタカナばっかりでFRUITSMIXさんのセリフが読みづらいですが、安心してください。すぐにこやつのボイスチェンジャーも取れますゆえ……。

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