第4話 ルールは始めに決める①
翌朝、俺は同居人の彼女にいま考えていることを話した。
「一晩考えてみたけど、やっぱり俺は親父たちが間違ってると思う」
「ふむ」
「高校には行く。だけど、家には帰らない」
「ふむ」
「だから、その……。えっと……」
俺の言いたいことは彼女も分かっているのだろう。その証拠にこっちをニヤニヤと見つめてくる。
……もしかするとこの女は性格が悪いのかもしれない。
「…………落ち着くまで、泊めさせてください」
「うんっ。よろしい!」
なんか屈辱的なものを感じるが、自分は当然頭を下げる立場なので仕方ない。
「でも、どうする? 服とかないけど……」
「制服とジャージあるし、当分は着回しにする」
「それじゃあんまりよくない気がするけど……まあそれでいいなら」
それからは事務的な話が続いた。
まず合鍵として新しく作ってもらったというカードキーをもらった。彼女の方が家の不在時間が長いから、高校が終わったら先に家に帰っていていいらしい。ちなみにマンションの人に言って俺が出入りできるようにいろいろと手続きをしてくれたとか。
あとは家にあるトイレとか居間とか彼女の寝室の場所などの確認。そしてついでのように「家にあるものは好きなように使っていい」と言われた。
「と言っても、家に何もないんですが……」
「すごいな、いっそ
「いや、忙しくてあんまり休みとかもないものですから……」
人差し指どうしをくっつけて恥ずかしそうにする彼女。
別に責めてるわけじゃないんだが、料理道具もなければ本棚とか女子らしくぬいぐるみ、みたいなものもない。本当に最低限しかない感じだ。
「ちなみにご飯はどうしてんだ? コンビニ?」
「ううん。家の近くのコンビニの場所が分かんないから、配達してもらってる」
「そんな理由ある⁉」
家の最寄りのコンビニとか、一番最初に覚えるやつだろ。
「どんだけ記憶力ないんだよ」
「記憶力っていうか……方向音痴?」
「どっちにしても大概だな」
やっぱりこの女は人間が生きていくうえで大事な能力みたいなものが欠けている気がする。
むしろ親御さんもよく一人暮らしを許したもんだ。
「まあ、じゃあそんな感じか」
ひとまず話すべきことは話し終えたので一旦勉強でもしようかと思ったのだが、そこで彼女が制止の声を上げる。
「あ、待って。それよりも一番大事なこと忘れてるじゃん」
「一番大事なこと?」
「そう!」
そう言うと、彼女はにっかりと白い歯を見せて楽しそうに言った。
「ゲーム! ゲームしたいんでしょ? ゲーム機買わなきゃ!」
「はあ?」
彼女の中の優先順位を正しく決める回路は、一体どこでバグを起こしたのだろうか。
「なんでゲームが一番大事なことなんだよ。どう考えても一番どうでもいいことだろうが」
「でも、ゲームのために家出してきたんでしょ? それだったら、ゲームできなきゃつまんなくない?」
「はぁ……」
心底理解できないみたいな顔を
だってそうじゃん。ゲームのために家出したんだから、ゲームしないと。
「大体なあ、俺がやってるゲームはPCゲーム。パソコンがないと出来ないやつなんだよ」
「え、そうなの‼」
てっきりカチャカチャ動かすやつを持つんだと思ってた……。最近のゲーム事情は進化してるのね……。
「言っとくけど、昔からパソコンでゲームできるからな……」
「ナントイウコトダー! というか人の心を読むな‼」
「それにパソコンは高いし、マウスとかキーボードとかモニターとか、いっぱい必要になるからさすがに……」
「あ、でもウチにもパソコンあるよ!」
「あるのかよ‼」
あぶないあぶない、忘れるところだったぜ。ふう。
「ほら、ドラマのシーンとか、事前にどういう感じで動くかとか資料が送られてくるんだよ! そういうのチェックするために、マネージャーさんが選んで買ってくれたの」
「そういうものなのか」
まあむしろそのためにしか使ってないから、パソコンってこと自体忘れてたんだけどね☆
「ほら、わたしの寝室にあるから、使いにいこ!」
「えっ、ちょっと」
善は急げ。レッツゴー!
「お前、自分の寝室に男連れ込んでいいのかよ!」
「え? ダメなの?」
「もうお前に常識を求めるのやめるわ‼」
よくわかんないけど、レッツゴー!
挙動がおかしい隼くんを連れてレッツゴー!
次回へ、続く!
―――――――――――――――
なかなか隼くんが彼女の名前を呼ばないので一応言っておきますが、彼女の名前は
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