第4話 ピアノの練習
歩には楽譜を読むことが出来ない。
歩にとって楽譜は重い紙の束と同じ
教えるとなると、聞かせる事だけ
それがどれほど大変な作業なのかは想像すれば分かる
右手の音と左手の音。
さらには強弱と楽譜には書いてあるが
それを教えるのは聞かせる事でしか出来ない。
先生は左手と右手をテープに録音してから一つ一つ説明をする
これが歩の一番わかりやすいレッスンになった
簡単な曲なら点字でもあったが
コンクールの曲には点字が無いのは
それほど複雑に組み合わさった曲
だから点字に出来ない理由がある
先生が作ったテープは楽譜より大変な作業になった。
しかし歩には、誰にも持っていない心の目があった
歩が自分でそう言った、簡単な母親の質問の応えだった。
「歩にはどうやってわかるの?」
その返事がそれだった。
「んーっとね、音が気持ちに見えるとか
感触も見える心の目かなぁ」
その心の目を開くきっかけは
両親が普通の子供と同じように色々な場所に
連れて行って遊んであげたからかも知れない
父親がみんなと同じ事を色々させたのは歩にとって
全てが音楽によって変化して伝わる、海の水がしょっぱい事
川の流れを聴いてそれが川だと音で分かる事、歩には
周りにある全てが見えないけど音で分かる事で心の目が
自然に出来ていた、父親は何かあっても乗り越えられるように
育てたのが歩の心の目を開かせたのは偶然で必然だった。
母親は今いる場所や物の形など
色を見えなくても全部を教えていた
海に連れて行った時には、砂を触らせて
「これが砂だよ」
「これが海の水だよ」
と教えていった
とにかくなんでも触らせてみたり
歩かせてみたり
全部言葉で教えて、触らせて
なんとか理解させてみようと
一生懸命に育てていたのは
この先、歩には必要な事と普通に育ててあげたい
気持ちが、ピアノだけじゃなく
他にも沢山あることを知ってもらいたいのは
同じ子供の経験を目が見えないからとか関係無く
恐れずできるだけ知って欲しい
それが親心だからかも知れない。
歩の才能に一目置いてくれたのは
同じピアニストであり楽団を指揮していた始めてコンサートに
誘ってくれた指揮者だった、目が見えない事を知らずに
歩の演奏を聴いて、普通の人とは違う
音が聴こえてきたからだった。
その時は目が見えない事は知らなかった
しかしその事実を知っても
あえて難しいとされる曲を選んで
自分のコンサートに招いた。
この子になら出来ると確信したからだ
会うまで実際に聴くまでは少し不安もあったが
聴いた途端に笑っていた。
「良いコンサートになりそうだ」
コンサートは海外のウィーンで開かれる
初めての海外コンサート
それには歩を世界に連れて行くのと
耳の肥えた人達に歩の演奏を聴いて欲しいと
思ってのオファーだった。
もちろん海外の人は歩を知らない
だが、指揮者は有名なので観客は埋まった
問題は世界のクラシック好きの人の耳の肥えた人達に
どれだけ反響があるのか
それほど聞かせたい気持ちがあった。
「私の音楽職業にとって、歩君の実力を私は信じている」
コンサートの前に団員の人達の前に歩を紹介する
団員はピアノの前に連れて行く姿を見ている
目が見えないピアニストを国際ピアノコンサート
では見た事が無いのと、大丈夫なのかとの気持ちで。
歩が先ずはピアノを弾く、ピアノの実力を見てもらうためと
このピアニストと一緒に演奏するのだから
挨拶みたいな感じといえば、音による挨拶。
歩がピアノを弾くと楽団員は息を呑み込んだ
今まで聴いたことの無い音色とその時間が全員を感動させていた
その時、歩はまだ十四歳誰もが魅了されていた
その後見事に海外コンサートで歩はデビューした。
コンサートでも海外のクラシック好きの人を
鳴り止まない拍手が止まらなかった
歩は純粋に聴いてくれた人達に演奏が終わった後
ピアノに手を置いて、深くお辞儀をするのは毎回
感謝の気持ちのありがとうございますだった
そんな姿を見て更に歩の気持ちが伝わって
目が見えないのをクラシック好きの人を
新しい世界に連れて行った。
次の日の海外の新聞に載ってからは
聴いてみたい人が増えるほど
有名になった、歩本人も母親もそれにはとても喜んだ
それから更にコンサートが増えていった
同時にピアノの練習も増えた
それでも歩は楽しく弾き続けた
その甲斐があってこの後初めての
海外ピアノコンクールに出る資格をもらえることになった
世界ピアノコンクールには年齢制限があるので、最年少出場になった
その歳十七歳になっていた。
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