第3話 初めてのピアノコンサート

 あれから、毎日歩と一緒に先生の所に通い

いつも一緒に歩と目標に向かって

それでも歩は毎日が楽しそうで笑っている

歩は見えないから色々と他人が気を使ってくれている

事に私は特に何も歩には言っていなかった。


 相変わらず父親は歩に厳しく努めている

それでも歩はみんなと同じように勉強もちゃんとする

色々な事に興味があり、聞いてきた。


「お母さん色って何?」


 これにはなんて言えばいいのか

流石に説明に苦戦した、だけど何とかわかりやすいように

わかってくれるように言葉を合わせて。


「歩が聴こえる音あるでしょう

川の音とか、風の音とかそれに

音と違う見れる音が色になるのかな」


 私はいつも歩と一緒にいるから

これが一番わかりやすいと思って言ってみた

歩は聞いた後、少し考えてから私に言った。


「じゃあ今度、僕の色を教えるね」


 歩は私を困らせないように

優しく応えてくれた、この子はこの子なりに精一杯生きてる

私をいつも助けてくれるのは

心から嬉しくて歩を産んで良かったって毎日思う

始めて目が見えないと知った時は涙を流していたのに・・・

常に一緒だから歩の気持ちに嘘が無いのは

私が母親だからわかるんだ。


 歩はどんどん大きくなってきて、逞しくなっていく

それから十歳になってスペシャルコンサートの話が来た

遂に歩のピアニストのデビューが決まった

それは思いがけない偶然だった

あの歩のコンクールを見ていた有名な日本の楽団を持っている

指揮者からのオファーだった、断る理由はないこれは

歩のチャンスだとはっきりわかる。


 僅か十歳の子供に

有名な交響楽団と共演する

私は夢を見ているのかと思った

歩は凄く喜んではしゃいで

ジャンプしてまで嬉しさを伝えてくれた。


 それでも父親は歩に厳しく育てた

まだ十歳だから決して甘やかさなかった。


 それから歩は楽団員達と練習を重ねた、始めは

楽団員も心配そうに歩を見ていたがいざ歩がピアノを弾くと

楽団員はその素晴らしい演奏に言葉を失った

今まで聴いた事のない音色と心を包む演奏に驚かせた

指揮者の目にはそれを見抜いていた

それからは楽団員も素晴らしいコンサートになると

確信してよりもっと歩の演奏を引き立てるようになった。


 コンサートでは歩も流石に緊張していたのは

いつも一緒にいるからわかった

私は歩に安心させようと優しく背中を撫でて


「いつも通りに、楽しく弾いて来てね」

 と言った。


 歩をピアノまで連れて行ってくれたのは楽団の指揮者

が進んでエスコートしてくれた

立派なピアニストとして。


 前評判が良く、会場は満員だった、拍手の大きさに私も驚いた

目が見えなくても音楽は平等に扱ってくれる。


 この子に相応しいお出迎えで、それだけでも

感動を隠せない

指揮者は歩にわかりやすく合図を楽団全員に送った。


 歩のピアノと楽団員の息はぴったりで

歩のピアノが更にコンサートを盛り上げているのがわかる

歩のピアノはもう、世界を見ている、世界に届く。


 楽団員の緊張が伝わってくるのは

歩のピアニストとしての才能の凄さに

置いていかれまいと指揮者を見る目が必死だ

指揮者も歩のピアノをもっと生かそうと楽団員に目を見張る。


 観客も目を見張る、あまりにも素晴らしい

演奏に僅か十歳の子供なんか関係無い

みんな認めてくれてる、ピアニストとして。


 演奏が終わると観客みんなが立ち上がり

拍手を歩が会場からいなくなるまで

その後指揮者が歩に近づいて大きな声で


「素晴らしかった、君とまた一緒に演奏したい」


 そう言った後に歩は

「次はもっと上手く弾きます。今日はありがとうございました」


 それから何回もコンサートをやり毎回チケットは

完売した、口コミが広がりクラシックが好きな人は

歩の存在を更に広がっていった。


 歩はまだ自分が伸びると信じている

お父さんに言われた通りまだまだと

更にもっと高くみんなに聴いて欲しいって本気で言っていた。


 私は歩に寄り添って、嬉しい気持ちと

良く頑張ったと褒めて褒めて、家に帰るまで喜んだ

産まれてきて目が見えなくても、始めは絶望していた母親は

今は歩の輝く姿を見て、諦めず何かを探し見つけた

この子はもう立派なピアニストになったのだから

それでも父親は歩に厳しく努めている。


「まだ十歳なんだから、勉強もピアノと同じように頑張りなさい」


 お母さんは

「今日くらい褒めてあげてもいいじゃない」


 と言ったが父親はまだ十歳なんだから

子供を甘やかすんじゃないと歩の教育方針は曲げなかった

今日だけは歩もお父さんに褒めて欲しかったみたいで

黙って部屋に入って行った、父親は仕事で歩の演奏をまだ

会場で聴いた事がないから、歩はお父さんに喜んで欲しかった

だけどお父さんは僕を嫌いじゃないとちゃんとわかっていた。


 ピアニストとしてデビュー出来ても心はやっぱり子供だ

褒めて欲しいのは当たり前に思うのはみんな同じだろうけど

父親として男としてはまだまだ

褒める訳にはいかないのは

大人になった時、褒めてくれる人はいない

のを父親は知っているからだ

だからまだ歩を一人で生きていけるように

歩の未来を考えての事だ。


 夏休みにはみんなと同じに海に連れて行き、何でもやらせる

父親として、いつでもみんなと同じ事が出来るように

何かあっても乗り越えられるように父親として出来るかぎり

歩には特別扱いはしないと決めていた、産まれて来た時

母親は目が見えないと知った時から不安しかなかったのを

夫として色々と考え、目が見えないから不幸では無い

世界にも目が見えない人は沢山いる、その現実に

一番しっかり考えていたのは父親として立派に育てること

そう覚悟していたからだ。


 コンサートの評判が余りにも良くて

直ぐにソロコンサートの話がきた

母親は喜んで歩に教えてあげた

それを聞いた歩は少し喜んで

もっとピアノの練習をしたいと言ったのは

お父さんに認めて欲しいのと

自分はもうピアニストの自覚があるから

歩はどんどん成長していく

その後のコンサートも満員で歩も立派に演奏出来た。


 ここまで来たらもう歩の好きに

ピアノを弾かせてあげたいと母親も

どこまでも一緒について行った。


 でもまだ世界レベルのピアニストの同世代の

子供達の事は何も知らなかったのは

殆どの日本のピアニストはそれほど差がある

世界を知らなかったから、だがそれが後に歩にとって

有利になることは母親も歩にも知らなかった事で

重圧と厳しい世界から不安は無く出来たのはそれから

十年後に知ることになった。


 世界のピアニストを目指す子供は

だいたい親もピアニストで英才教育を受けている

子供達の中に何も知らずに目標が一緒なのは

目が見えなくてただピアノが好きだけの歩とは

全然違う世界だから、毎日練習の日々、そうじゃないと

言われ、もう一度やり直しなさいと言われ勉強より

ピアノだけ頑張りなさいと言われるのが、世界で有名な

コンクールを目指す教育なのである。


 人生で一度しか受けられないコンクールを目指す事は

それほど過酷にピアノを弾き続けた人の集まりのごく数人。


 ここに気づくのはこの後に迫る

ほんのひと握りになる世界レベルを知らなかったから

普通の生活で裕福でも無く、自分のピアノも持って無い

家庭にはあまりに差があり過ぎたのは当然歩にも母親にも

知らない世界だった、それだけの事。


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