第29話 わたし、また目が覚めたよ。
わたしは眠かった。
眠くて眠くてしかたがないけど、それ以上にノドがかわいてしかたがなかった。
目が覚めると、お父さんがいた。
「ミコ!」
お父さんは泣いていた。
「いきててよかった ! よーかったーー!」
泣いているお父さんに、わたしはどんな返事をすればいいのかわからなかった。だからね、思ったことを言った。
「ノド……かわいちゃった……」
「わかった!!
お父さんは、大急ぎで病室の外に出ていった。
そっか……ここ、
わたしは自分の手を見た。透けていなかった。代わりに点滴のくだがささっていた。
点滴のくだの先をたどっていくと、透明な容器から、しずくが「ポタンポタン」と落ちていた。
「
「
「うん……ちょっと……記憶がとびとびのところがあるけど平気だよ?」
そっか……
『瑞子ちゃんなんていない』
って言ってたのに……どうして?
わたしが頭をぐるぐるさせていると、
「チュウチュウ! おマヌケ神様どっこかなー? えへ♪」
と、わざとらしい演技を「ぺろりん」って
「え? どういうこと??」
瑞子ちゃんは、自分のヒゲをつつきながら言った。
「なんだか、まざっちゃったみたい。えへへ♪」
頭がぐるぐるする。本当に、どういうこと??
「わたし、お母さんが妊娠した直後からネズミの鬼にのっとられたでしょ?
だからね、完全にわかれることができなくて、まざっちゃったんだと思う。
わたしとネズミの鬼の半分は、
頭がぐるぐるする。本当に本当に、どういうこと??
「ネズミの鬼は、ありがとうって言ってるよ。
本当に、ありがとうって言っているよ。
あと、まだ地獄に取り残されているウサギの鬼と、ヘビの鬼と、ウマの鬼と、サルの鬼と、それからトリの鬼。
この五匹がミコちゃんをおそってくるはずだから、やっつけて天国に来るように教えてあげて……だってさ。えへ♪ えへへ♪」
頭がぐるぐるする。本当にぐるぐるする。本当に本当に、どういうこと??
「ようするに結果オーライ! ってこと! えへ♪」
ウソをついていない。本当に本当に本当のことを言っている。そう思えた。
「ミコ! 飲み物を買ってきたよ!!」
お父さんの声がした。同時に、病院のスライドするドアが静かに開いた。
お父さんの手には、両手いっぱいの飲み物があった。
「
「じゃ、これにする」
わたしは、お父さんが持っているペットボトルや缶の山から、スポーツドリンクのペットボトルをえらんだ。
有名なスポーツドリンクの、ちょっと味がうすいやつ。
味がうすいから、パッケージもうすい水色。
お父さんは、瑞子ちゃんのベッドの方に歩いていった。
「
「ありがとうございます。じゃあ、これ、いただきます」
瑞子ちゃんは、お茶をえらんだ。
有名なお茶のペットボトルの、ちょっと味がこくて苦いやつ。
味がこいから、パッケージもこい緑色。
わたしたちは、お父さんからもらったペットボトルのフタを「パキリン」と開けて、ごくごくと飲んだ。
夢の中でヒツジの鬼になっていた時に比べると、ずっとかんたんに飲むことができて、人間って便利だなって思いながら、ちょっとうすいスポーツドリンクをゴクゴクとのんだ。
「元気そうでなりよりだね」
言ったのは、白衣を着た
「元気そうだけど、君は一週間も寝たきりだったんだ。診察をさせてもらうよ」
そう言って、わたしの前に座った。
わたしは、いつの間にか着ていたパジャマをめくった。
わたしの胸にはちっぽけなキズがあった。白い糸で縫われてあった。ちょうどヒツジの鬼がとりついた場所だった。
「うん、とくに異常はないよ。二、三日様子を見てから抜糸して、そのあともう二、三日してから退院してもいいんじゃないかな?」
わたしは、まくったパジャマをおろしながら、
「ありがとうございます」
って言った。
わたしのお父さんと、
わたしのことを助けてくれたみんなに「ありがとうございます」って言った。
そして、
「わたしガンバるね!」
って笑顔で言った。
「よろしくね……本当によろしくね♪ えへ♪」
瑞子ちゃんは、笑顔で答えた。くちと頭をおさえながら、三本のヒゲと灰色の耳が「ぴょこん」と出るのをおさえながら、すっごくカワイイ笑顔で、でも泣きながら返事をした。
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