第28話 わたし、目が覚めたよ。

 わたしは眠かった。


 眠くて眠くてしかたがないけど、それ以上にノドがかわいてしかたがなかった。

 だからわたしは、しょうがなく目を覚ました。

 目を覚ました場所は、広い広い草むらだった。

 遠くの方に、おっきな木がいっぽんだけ生えている。


 わたしは体を起こした。ずいぶんと体がちっちゃくなった気がする。そして、ふつうに立つことはできなかった。

 わたしの足は、真っ黒で細くて、そしてヒズメがあった。

 わたしは四足歩行の動物になっていた。


 でもそんなことよりも、わたしは、とにかくノドがかわいていた。カラカラだった。

 だからね。耳をすました。するとね、川のせせらぎが聞こえた。水が流れる音がした。


 わたしは、音が聞こえる場所に走った。ちっちゃな小川があった。わたしはおおいそぎで小川に口をつけると、ゴクゴクと水をのんだ。したをつかって、上手に水をすくって飲んだ。

 水をたくさんのんで、ようやく気持ちがおちついた。そしたらね。


 え? どういうこと?


 ようやく、水面に映った自分の顔に気がついた。わたしはヒツジになっていた。

 あ、ツノがあるからヒツジの鬼か……。


「メエー!」


 わたしは声を出した。「ウソでしょ!」って言ったつもりだったのに、声をだしたら「メエー!」って言っていた。


 え? え? どういうこと?


 わたしは、生まれ変わったの? ヒツジの鬼に生まれ変わったの??


 わたしが頭をぐるぐるさせていると、小川の流れのむこうになにかが動くのを感じた。

 ちっちゃい、とってもちっちゃいネズミだった。

 あ、ツノがあるからネズミの鬼か。

 ネズミの鬼は、小川がわたれなくて困っているようだった。


「メエー?」


 わたしは声を出した。「どうしたの?」って言ったつもりだったのに、声をだしたら「メエー?」って言ってた。


 ネズミの鬼は、「ビクゥ」ってとびはねると、わたしを見てガタガタとふるえはじめた。

 わたしは、ガタガタとふるえるネズミを口にくわえると、小川をパシャパシャとわたった。


 ネズミの鬼は「チュウチュウ」と、とってもすまなそうに言った。

 わたしはそんなのゼンゼン気にしてなかったから「メエー」と言った。

 

 わたしは小川をわたると、口にくわえていたネズミの鬼をはなした。

 するとね、ネズミの鬼は、わたしの体にピョンと乗ってごきげんな声で「チュー」って言った。

 わたしは、ネズミの鬼が教えてくれた方向に走った。四つの足で走った。


 するとね、目の前にドラゴンの鬼と、ウシの鬼と、イヌの鬼が見えてきた。


 わたしが「メェー!」とあいさつをすると、

「キャンキャン!」

「グオオオオオオッ!」

「モオオオオオオッ!」

って、あいさつをしてくれた。


 ネズミの鬼は、わたしの体の上でガタガタとふるえていたから、わたしは「メェー」と言った。

 イヌの鬼と、ドラゴンの鬼と、ウシの鬼は、ネズミの鬼にペコリと頭をさげた。

 ネズミの鬼は、


「チュウチュウ?」


とウシの鬼に聞いた。そしたらウシの鬼は、


「モオオオオオオッ♪」


って返事をした。


 ネズミの鬼は、わたしの背中から、ウシの鬼の背中の上に「ピョイン」と乗った。

 ネズミの鬼はうれしそうだった。本当に本当に、うれしそうだった。

 わたしが、うらやしいな……って思っていたら、


「グオオオオオオッ♪」


ってドラゴンの鬼が言ってくれたから、ワタシはお言葉にあまえて、ドラゴンの鬼の背中に「ピョイン」と乗った。


 イヌの鬼と、ドラゴンの鬼と、ウシの鬼は走った。

 すると目の前に、トラの鬼と、イノシシの鬼が見えてきた。


 トラの鬼と、イノシシの鬼はかんがえていた。

 分かれ道でかんがえていた


 上り坂の明るい道と、下り坂の暗い道、どっちに進むかなやんでいた。

 わたしたちが、


「メェー!」

「チュウチュウ!」

「キャンキャン!」

「グオオオオオオッ!」

「モオオオオオオッ!」


ってあいさつすると、ふたりは、

「ガオオオオオ!」

「ブモッーーー!」

ってあいさつした。


 みんなはなやんでいた。

 上り坂の明るい道と、下り坂の暗い道、どっちに進むかなやんでいた。

 だからね、わたしは言った。


「メェー」


って、上り坂の明るい道の方がきっと楽しいよって言った。

 そしたらね、みんながうなずいた。


 わたしたちは、上り坂の明るい道の方を歩いていった。


「メェー」


 ヒツジの鬼の声がした。わたしの声じゃなかった。

 気がついたら、わたしはフワフワと浮いていた。


 わたしが下を見ると、ネズミの鬼と、ウシの鬼と、トラの鬼と、ドラゴンの鬼と、ヒツジの鬼と、イヌの鬼と、イノシシの鬼がこっちを見ていた。


 みんなは、うなづきあうと、代表してヒツジの鬼がわたしに向かってさけんだ。


「メエーーーーーーー!」


 あ! そういうこと?


 わたしは笑顔で返事をした。


「そっか! 残りの鬼たちにも、そっちに行くように教えてあげればいいんだね!」


「メエ! メエー! メエーーーーーー!」


 ヒツジの鬼は返事をした。


「わかった! 絶対につたえるね! 絶対に絶対につたえるね!!」


 わたしは、笑顔で返事をした。

 するとね。フワフワと浮いたわたしの体は、グングンと上昇していった。

 そしてわたしは、眠くて眠くてしかたがなくなった。

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