第23話 瑞子ちゃんは甘いものが本当に苦手だよ。

 瑞子みずこちゃんは、わたしの目を見ると、にっこりとほほえんだ。


「うん……いるよ……未神みかちゃんの目の前に」


 チクン。


 あれ? ヘンだな、なんだかムネがアツい。

 瑞子みずこちゃんは、わたしの目を見てずっとニヤニヤと笑っている。


 ドクン。


 あれ? ヘンだな、なんだか息が苦しい。

 瑞子みずこちゃんは、わたしの目を見てずっとニタリニタリと笑っている。


 ズキン!


 あれ? ムネが痛い! ズキズキする! 痛い! 苦しい!!

 瑞子ちゃんは、口に手をあてた。そしてね、


「えへ♪」


と、わたしのムネを見ながら、ウイスパーボイスでカワイく笑った。


 わたしは、自分のムネをみた。


 え? どういうこと!?


 わたしのムネに、針金みたいな灰色の細長い剣がつきささっている。

 フェンシングの試合に使うような、とっても細長い剣。


 瑞子みずこちゃんは、口にあてた手を「しゅるん」とぬぐった。瑞子みずこちゃんの顔には、三本のヒゲが生えていた。

 瑞子みずこちゃんは、力をぬいて頭をぐったりと下げた。そしておおきく深呼吸をして、いきおいよく顔をあげた。


 そしたらね。


「チュウチュウ! やーい! おマヌケ神様がだまされた! ネズミの鬼にだまされた、おマヌケな神様はどっこかなー?」


 瑞子みずこちゃんの黒髪に灰色の耳が生えていた。そして、灰色の細長い剣は、瑞子みずこちゃんのおしりのところから生えていた。


 ズリュん!


 わたしのムネにつきささっていた細長い剣がひきぬかれた。

 ううん、剣じゃない! しっぽだ! ネズミの鬼のしっぽだったんだ!!


 え? え! どういうこと!?


瑞子みずこちゃん!?

 いつ、鬼にとりつかれたの??」


「チュウチュウ! 生まれた時からずっとだよ。えへ♪」


 瑞子みずこちゃんは、カワイく笑った。まるで演技するみたいに、とってもわざとらしくカワイく笑った。


「な……ん……で?」


「チュウチュウ! 今回の干支えとの順番を決めるレースが『もっとも偉い神様を殺した人が勝ち』だからだよ♪

 だからね、小学校一年の時からずっと、未神みかちゃんの友達のフリをしていたの。えへへ♪」


 え? え! え! どういうこと!?


「チュウチュウ! 前世で、この国の王様だった人に取りついたんだ。卑弥呼ひみこっていう巫女の王様。わたしはね、生まれる前からこの体にとりついて、じっと神通力をやしなっていたんだよ。えへへへ♪」


 え? え! え! え! どういうこと!?


「……犬飼いぬかいさんたちに……いじめられて……いた……のは……?」


「チュウチュウ! あれは本当! 十一歳になって、干支えとが一周巡って神通力が一人前になったら、おマヌケ神様を殺してやろうと準備していたのに、あのワンコロたち、わたしのエモノを横取りしようとするんだもん。

 ズルイよね。わたしには、頭の良さで勝てないから四人がかりでわたしのエモノを横取りにきたの。わたしをイジメにきたの。


 ひどいと思わない!? ヒキョウだと思わない?


 まあでも、マヌケなヒツジの鬼が足を引っぱって、あっけなくナイトにやられちゃったけど。えへへへへ♪」


「ケホッ……ゲホッ!」


 わたしは咳き込んだ。あわてて手で口をおおったら、手のひらが黒くて赤い血でそまっていた。

 ムネがズキズキする。そして頭がぐるぐるする。でもって頭がクラクラする。

 でもね、わたしは聞きたいことがあった。どうしても聞きたいことがあった。


 だからね。聞いてみた。息が苦しいけど聞いてみた。


「ヒュー……瑞子みずこちゃんは……ヒュー……あなたの……演技……だったの? ケホッ……ゲホッ!」


「そうだよ! えへへへへへ♪

 前世の性格を真似してみたの。カワイかったでしょう?」


「ヒュー……前世……? ヒュー……前世の記憶があるの?」


「そうだよ。えへへへへへへ♪

 わたしは、本当は瑞子みずこちゃんとしての演技をしていたの」


 そっか……良かった。わたしは頭がスッキリした。

 わたしは、スッキリした頭で言った。


「ケホッ……ゲホッ!

 ヒュー……良かった……ヒュー……だったら……あなたを……おはらいすれば……ケホッ……ゲホッ!

 ヒュー……瑞子みずこちゃんは元に……ヒュー……もどるん……だね?」


 ネズミの鬼は、とってもおおげさなポーズをしておどろいた。


「チュウチュウ! あれあれ? お話を聞いていなかった?

 瑞子みずこちゃんは、わたしの演技。

 瑞子みずこちゃんなんて女の子は、この世のどこにもいないよ。

 この子のお母さんが妊娠した初日に、わたしがこの子の体を乗っとったんだもん。えへ♪ えへへ♪」


 わたしは、スッキリした頭で言った。


「ケホッ……ゲホッゲホッ!!

 ヒュー……まっててね……ヒュー……瑞子みずこちゃん……今……助けるから……」


 ネズミの鬼は、とってもおおげさなポーズでニタリニタリと笑った。


「チュウチュウ! おっもしろーい。この神様おっもしろーい。

 ゼンゼン、お話が通じない。

 瑞子みずこちゃんなんていないのに。

 ぜーんぶわたしのでっちあげなのに!!

 おマヌケ神様おっもしろーい! えへ♪ えへへ♪ えへへへ♪」


 わたしは、わざとらしい演技をしている、瑞子みずこちゃんをのっとったネズミの鬼の話をムシして、なまぬるくなった、あまっあまのミルクコーヒーを口にふくむと、


「ブッ!」


って思いっきりネズミの鬼の顔にふきかけた。


「ぎゃああああ!」


 ネズミの鬼は、思いっきり苦しんだ。そして真っ黒なけむりにつつまれた。

 わたしは……頭が真っ白になった。すっごく体が冷えていた。そして……目の前が真っ白になって……ゆっくぅぅぅうりと倒れた。

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