第22話 瑞子ちゃんが、運命の人を教えてくれたよ。

 瑞子みずこちゃんは、筆に墨をたっぷりとふくませると、相生そうじょうくんを占った絵に、サラサラと新しい絵を描きたしていった。

 岩山の間を走るピカピカの新しい船の上に、おかっぱボブの女の子が、笑顔でちょこんとすわっている。


 わたしだ。


 そして、船の上にたくさんのお菓子やオモチャを描きたすと、瑞子ちゃんは筆をコトンと置いて、その絵をみながらしゃべりはじめた。


「この男の子は、未神みかちゃんをとっても大切に思っている。未神みかちゃんが危険な目に会ってほしくないって心から思っている。

 でもちょっと心配しすぎかも。ふつうの女の子なら、きゅうくつに感じちゃうかな?

 でも未神みかちゃんは、わりと、けっこう、ものすごく天然だから、これくらいしっかり心配してもらった方がいいかも?」


「えっと……つまり?」


「相性はバッチリ! 最高だよ!」


 瑞子みずこちゃんはカワイイ笑顔で答えた。


 そっか……わたしと相生そうじょうくん、相性いいんだ……。


「じゃ、次の男の子ね……」


 瑞子みずこちゃんは、小さなふでに墨をたっぷりとふくませると、今度は風水ふうすいくんを占った絵に、サラサラと新しい絵を描きたしていった。

 雨の中、たいまつがあるステージの前で、おかっぱの女の子が巫女装束みこしょうぞくで踊っている。


 わたしだ。


 でも、わたしを描いた瑞子みずこちゃんは首をひねった。そしてしばらく考えてから、女の子をもうひとり描いた。髪が長くて背の高い、すっごくカワイイ巫女装束みこしょうぞくの女の子。


 風水ふうすいくんにそっくりだ。


 瑞子みずこちゃんは筆をコトンと置くと、口に手を当てながらしばらく考えこんだ。そして、首をひねりながらしゃべりはじめた。


「あのね……ちょっと変なこと言っちゃうかもだけど、未神みかちゃんは、この女の子」


 そう言って、風水ふうすいくんにそっくりな女の子の絵を指さした。


「でね、占っている男の子が未神みかちゃん」


 そう言って、今度はわたしにそっくりな女の子を指さした。


「つまりね、この男の子は未神みかちゃんを演じてくれる男の子。未神みかちゃんに危険がせまったら、体をはってまもってくれる男の子。危険をかえりみずに助けてくれる男の子。

 カッコイイ! 女の子みたいだけど、ハートはスッゴク男らしくてカッコイイ!」


「えっと……つまり?」


「相性はバッチリ! 最高だよ!」


 瑞子みずこちゃんはカワイイ笑顔で答えた。


 そっか……わたしと風水ふうすいくん、相性いいんだ……。


「じゃ、最後の男の子ね……」


 瑞子ちゃんは「はぁ」とため息をついて、すっごくイヤそうな顔をして筆をとった。

 わたしは巫女装束みこしょうぞくのかっこうで、おはらい棒をもって怒っていた。そして、その反対側に、すっごく性格が悪そうな黒ネコが毛を逆立て怒っていた。今にもわたしに向かって飛びかかってきそう」


 瑞子みずこちゃんは筆をコトンと置くと、すっごくコワイ顔をしてしゃべりはじめた。


「この男の子は、未神みかちゃんを見るとすぐに「バカ!」って言う。

 言葉がドゲトゲしていて未神みかちゃんを傷つける。ホンット最低。

 バカなニャンコはホンット最低。うえは洪水こうずい、したは大火事の大戦争! 天戦地冲てんせんちちゅうって相性だよ!」


「えっと……つまり?」


「相性は最悪! この男の子はダメ! 絶対にダメ!!」


 そうなんだ……わたし、凪斗なぎとくんと相性最悪なんだ。


 チクン。


 あれ? なんだろうこの感じ。ムネがざわつく。


 瑞子ちゃんは、三枚の絵を見ながら言った。


未神みかちゃんの運命の人は……船の男の子と、たいまつのステージの男の子のどっちか。どっちもすっごく相性良いから……むずかしいな……でもね……もっと相性いい人いるよ。未神みかちゃんの事、もうずっと好きな人がいるよ」


「え? どういうこと?」


「その子はね、小学一年生の時から、ずっと未神みかちゃんのことが好きで、ずっと未神みかちゃんを見ている。

 ううん、小学一年生の時からじゃない。産まれた時からずっと未神みかちゃんをている」


「え? そんな人いるの?」


「うん……いるよ……未神みかちゃんの目の前に」


 瑞子ちゃんは、わたしの目を見ると、にっこりとほほえんだ。


 陶器みたいにすっごく白い肌で、腰まである黒髪で、キラキラしたおっきな目で、トロンとした二重のまぶたで、背はわたしよりちょっとだけ低い。すっごい美少女が、わたしの目を見て、にっこりとほほえんだ。


 トクン!


 瑞子ちゃんは、おっきな瞳で、わたしのことをまっすぐと見て、ずっとほほえんでいた。

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