第21話 瑞子ちゃんは、占いが得意だよ。

 瑞子みずこちゃんは、おっきな目をキラキラさせながら、自分の部屋からリビングに戻ってきた。

 手にはキーボードのついたタブレットとお習字セット。瑞子みずこちゃんは、このふたつをつかって占う。


 わたしは、瑞子みずこちゃんに、ナイトの三人の誕生日と生まれた時間、そして生まれた場所を教えた。

 瑞子みずこちゃんは、すぐにタブレットについているキーボードをカチャカチャとたたいた。


 パソコンに、八つのむずかしい漢字がうかんだ。瑞子みずこちゃんはその漢字を、リビングに置いてあっったメモ帳にかきうつした。そしてまたタブレットについているキーボードをカチャカチャとたたいた。

 占うのはナイトの三人。だから、これを三回くりかえす。


 わたしは、そのあいだに瑞子ちゃんのお習字セットを準備して、キッチンから水をとってきてすずりに注いで、それから船の形をした墨をすった。


 瑞子みずこちゃんが、絵を書く準備をするんだ。


 瑞子みずこちゃんに占ってもらうのは、今日が初めてじゃない、もう、なんどもなんども占ってもらっている。


 瑞子みずこちゃんは体が弱い。喘息。だからね、遊ぶときはほとんどお家のなか。小さい頃は、おままごとをしたり、お人形であそんだり、女の子が戦うアニメを見たり、ダンスを練習したりして遊んでいた。

(瑞子ちゃんの家のテレビはすっごく大きいから、アニメは大迫力で楽しめるよ)


 それから、少しおっきくなったら、マンガを読んだりゲームしたりして遊んでいた。

(瑞子ちゃんの家のテレビは本当にすっごく大きいから、ゲームは本当に大迫力でで楽しめるよ)


 そして今は、占いをすることが多い。瑞子みずこちゃんはね、十歳のお誕生日から、いきなり占いが得意になった。


 シュッシュッシュッ。


 わたしは、墨をすりつづけた。じんわりと、すずりの中の水に墨がとけて広がっていく。


 瑞子みずこちゃんは、占いの先生で、わたしは助手。

 瑞子みずこちゃんが占いの情報をノートパソコンで調べている間に、わたしが船の形をした墨をする。


 瑞子みずこちゃんがする占いは四柱推命しちゅうすいめいって占い。

 その人の産まれた生年月日と時刻からわかる八つの漢字をしらべて、その漢字から連想した絵を描いて占う。


 シュッシュッシュッ。


 わたしは、墨をすりつづけた。じんわりと、すずりの中の水に、墨がどんどん溶けて、黒いケムリみたいにふんわりと広がっていく。


 四柱推命しちゅうすいめいはね、本当は漢字を調べるだけでいいみたいなんだけど、瑞子みずこちゃんは絵にした方がはっきりわかるって言ってる。

 墨を使った水墨画すいぼくがでその人の性格の風景を描く方が、あいまいなところがしっくりとつながるんだって。

 絵にすると漢字の意味がわかりやすくなるんだって。うーん……ちょっとよくわからない。


 シュッシュッシュッ。


 わたしは、墨をすりつづけた。すずりの中の水はどんどん黒くなっていく。


 占いのしくみは、正直言って、わたしにはよくわからない。

 瑞子みずこちゃんに何度も何度も聞いたけど、ちょっと何言ってるかわからない。

 でもね……瑞子みずこちゃんの占いは本当によく当たる。わたしは瑞子みずこちゃんの占いが、外れているところを見たことがない。瑞子みずこちゃんのはね、百発百中の占い師なんだ。


 コトン。


 わたしは、墨を置いた。お習字するときよりも、ほんのちょっと墨を薄くすり終えると、瑞子みずこちゃんに言った。


「じゅんびできたよ!」


「こっちも!」


 瑞子みずこちゃんは、八つの漢字が書かれた三枚のメモ用紙を持って、わたしが墨をすっていた場所にすわった。


「じゃ、描くね」


 瑞子ちゃんは、小さな筆にたっぷりと墨をしみこませると、迷う事なく半紙の上に絵を描いた。


 真ん中におっきな太陽。そして、中国の奥地みたいなゴツゴツとした大きな岩山がふたつあって、そのあいだを川がながれている。

 そしてその川に、ちょっとふつりあいなくらいピッカピカの新しい船が走っている。 


 瑞子ちゃんは絵を描きおえると筆をコトンと置いて、その絵を見ながらしゃべりはじめた。


「この子は、すっごく真面目。ものすごい努力家で勉強が大好き。昔ながらのモノが大好きで、でも、それと同じくらい新しいモノも好き。

 昔のモノと新しいモノ、そのふたつをつなげる人……なのかな?

 みんなのリーダーでぐいぐい引っ張っていくタイプだけど、ちょっと頭がカタイ。この絵に描いてある、岩山みたいにカタイ。カチンコチン。恋愛もテレ屋で奥手。でもそれはすっごく責任感があるから。大切な人を絶対に守りったいって言う優しさがあるから」


 ……相生そうじょうくんだ。この絵は、相生そうじょうくんを表している。

 わたしは瑞子みずこちゃんに、相生そうじょうくんの事をまだ一度も話していないのに、瑞子みずこちゃんは、相生そうじょうくんの性格をピタリと当てた。


「とりあえず、最初に三人の絵を描くね」


 そう言うと、瑞子みずこちゃんは小さな筆にたっぷりと墨をしみこませると、迷う事なく半紙の上にもう一枚絵を描いた。


 結構強い雨が降る中に、たいまつを二本立てたステージ? がある。

 まわりより、ちょっと高くなったステージ。

 そしてそのステージのバックは、おっきな岩が「ズシン」と置かれている。


 瑞子ちゃんは、筆をコトンと置くと、その絵をみながら首をかしげた。


「ねえ、未神みかちゃん?

 この子、本当に男の子? 女の子じゃなくて??」


「え? うん、男の子だよ」


 瑞子ちゃんは、絵をみながらスッゴクおどろいた。

 わたしも、スッゴクおどろいた。なんで、風水ふうすいくんが男のだってわかるの?


「うーん、男の子にこんなこと言っていいのかわかんないけど。すっごくカワイイよ! 笑顔もかわいいし、ダンスとかも得意そう。

 でもね、それは才能もあるけどそれ以上に努力……しているかんじ?

 だれよりもカワイくなるために、すっごく努力している。でもそれは絶対に表に出さない。実は結構イジっぱり。あとは……うーん、調子にのって人を傷つけることがあるかも?」


 瑞子みずこちゃんは、風水ふうすいくんのことをズバリと言い当てた。わたしの知らないことや、調子に乗ってお父さんをションボリさせちゃった弱点まで当てちゃった……。


「いいなぁ、この子、わたしもこんなカワイイ子になりたいよ……」


 瑞子みずこちゃんは、おっきなキラキラした瞳をうるませて、はかなげにため息をついた。


 瑞子みずこちゃん、今でもすっごくカワイイのに、これ以上カワイくなってどうするんだろう?


「じゃあ、最後の一人も描くね」


 瑞子ちゃんは、小さな筆にたっぷりと墨をしみこませると、迷う事なく半紙の上に絵を描いた。


 ギザギザの針の山の上に、太陽がギラギラと光っている。

 そしてこれは、血の池? ガイコツがプカプカと浮かんでいる。

 これ……地獄だ! 地獄の絵だ!


 瑞子ちゃんは、筆をコトンと置くと、その絵をみながらすっごくイヤな顔をした。


「わたし、この子キライ!」


「え? どういうこと?」


「この子は、人間じゃない。人間の心を持っていない人でなし!

 人のことすぐ「バカ!」って言う。自分が一番バカなのに。

 かしこいネズミにだまされたバカなのに! バカなニャンコは大っ嫌い!!」


 瑞子みずこちゃんは、すっごくコワイ顔をしていた。さっき犬飼いぬかいさんたちのことを話していたときと同じ顔だ。


 でも……当たってる。こわいくらい当たってる。

 凪斗くんのご先祖は、〝火車かしゃ〟って猫だし、閻魔様のお手伝いをしていたって相生そうじょうくんが言ってた。当たってる。コワイくらい当たってる。


 でも……わたしは外れてるって思った。凪斗なぎとくんはわたしに言ってくれたんだ。わたしをまもるナイトだって。

 そしてじっさいにわたしを助けてくれた。かさのオバケや、トラの鬼をやっつけてくれた。わたしにとりついたヒツジの鬼もやっつけてくれた。


瑞子みずこ……ちゃん?」


 わたしは、ずっと凪斗なぎとくんを占った絵をにらんでいる瑞子ちゃんに声をかけた。

 瑞子みずこちゃんは「ハッ」として、わたしの方を見た。


「え? あ、そ、そうだ! この三人と未神みかちゃんとの相性をるんだよね」


 そう言うと、瑞子みずこちゃんはふたたび筆に墨をたっぷりとふくませた。

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